耳・補聴器のこと

iPS細胞で難聴は治せるのか、難聴の原因から考える治療の問題

深井 順一|パートナーズ補聴器

補聴器で聞こえを改善していく方法については、聞こえの改善と補聴器のFAQ、にまとめています。また、個々の症状(症例)ごとの改善を知りたい方は、お客様の聞こえの改善事例へどうぞ。

iPS細胞による難聴の治療。これらの技術は、実際に実現可能なのでしょうか。これらの技術は果たして、応用可能なのでしょうか。

難聴に関してある程度、知っている者からすると少々不安な部分があります。難聴になった原因が色々あれば、難聴の方の状況も人それぞれです。

今回は、iPS細胞による難聴の治療に関する問題点を考えていきます。

難聴の治療で考える事

これらを考えるには、どこを治療する必要があるか、移植できるのか、を考えていかなければなりません。

どこを治すのか

難聴の症状別に分けますと、伝音性の難聴、感音性の難聴、機能性の難聴があります。

耳の図。耳の中には、いくつかの部位がある

耳の図。耳の中には、いくつかの部位がある

これらは、別々の原因で、難聴になっています。

伝音性の難聴は、耳の神経に音が伝わる前に、何らかの障害が発生し、聞こえにくくなっています。図でいう外耳と中耳と呼ばれる部分です。中耳炎や鼓膜に穴が空いてしまった方が対象になる難聴です。

感音性の難聴は、耳の神経に音が伝わった時に、神経系のとある部分に障害が生じ、聞こえにくくなっています。内耳と呼ばれる部分に音を感じ取る神経があり、蝸牛(かぎゅう)を含むこの先の、聴神経や脳の聴覚野までのところに障害がある場合、感音性難聴となります。突発性難聴、加齢による老人性難聴は感音性難聴です。また、生まれつきの難聴は、感音性難聴が多くなります。

機能性の難聴は、耳自体は、正常であるのに関わらず、心に何らかの不安、負担などを感じることで、聞こえにくさを感じています。上記の難聴に当てはまらないのに関わらず、音が聞こえにくい、音を捉えにくい方がいます。別名、心因性難聴とも呼ばれています。その他、心因性ではありませんが、耳自体は正常であるのに関わらず、聞こえにくい方として、学習障害を抱えた方も対象になります。

これらの原因は、難聴という状況を作りだしていますが、原因となる場所はそれぞれ異なります。

感音性難聴の原因から考えられる事

伝音性の難聴は、手術による治療ができるため、思考を省きます。もちろん再生医療を利用した方が、良くなるケースもあるとは思います。機能性の難聴は、耳の器官の問題ではないので、再生医療とは無縁になります。

こちらでは、感音性の難聴に限って、お話を進めていきます。

耳の中の図。有毛細胞は、蝸牛の中にある

耳の中の図。有毛細胞は、蝸牛の中にある

感音性難聴の場合、聴力低下の原因として考えられるのは、有毛細胞と呼ばれる部分の他に、聴神経と呼ばれる神経、その先の脳です。

これらのどこか一部分に障害が発生すれば感音性難聴になります。有毛細胞の劣化、損傷、欠如も原因の一つかもしれませんし、脳に音を伝える聴神経に異常があるかもしれません。神経の働きが悪ければ、それも原因の一つです。

原因は一つだけでなく、あれもこれも……と重なってその難聴を引き起こしている事も考えれます。

そうなれば、有毛細胞だけ再生されていても、難聴そのものを改善できない可能性を視野に入れなければなりません。

有毛細胞は、音を感じる器官です。音を感じる器官が再生されれば、音は聞こえるかもしれません。しかし、それが難聴者の望んだ音で聞こえるかはわかりませんし、単純に音が大きく聞こえるようになるだけなのかもしれません。

内耳は、耳の中を通ってきた音を各周波数ごとに感知し、感知した音を聴神経に送ります。聴神経は、受け取った音を脳に届けています。

この各周波数ごとに感知する部分が、有毛細胞の役目です。有毛細胞を再生できたとしても、聴神経になんらかの異常があれば、有毛細胞から送られた音は、しっかり脳に届ける事ができなくなってしまいます。

有毛細胞以外の部分にも、難聴の原因が潜んでいたら、音は聞こえるけれども言葉はわからない、といったことは大いに考えられます。

現在の再生医療

現在、有毛細胞の再生に成功しています。手法としては、有毛細胞そのものを再生したものと、マウスの内耳内にiPS細胞を入れ、内部で再生させたもの、両方あります。そして、わずか4mmではありますが、脳の細胞もiPS細胞にて作られたことがあるようです。しかし、脳に関しては、聴覚に必要な機能がどれだけ作りだせたかは、不明です。有毛細胞が成功し、生産がしやすくなれば、次は、聴神経、そして脳の聴覚野などに研究が進むでしょう。

iPS細胞は、細胞を再生させる技術です。有毛細胞も聴神経も再生させられます。神経系や細胞類は、iPS細胞で可能ですが、耳のそのものは、iPS細胞を使っても復活させる事ができません。耳の場合、中に骨があったり、鼓膜があったり、様々な物からできています。これらをiPS細胞で全て作るには、原理的に無理です。

耳と同じような部位として臓器があります。臓器の場合も、iPS細胞で全て作るには原理的に無理とされています。そのため、人のiPS細胞を豚や猿に注入し、動物の体に人間の臓器を作り出す試みがされています。そして、それを切り取って、患者に移植する……という方法が研究されています。

iPS細胞で治療は可能なのか

再生医療の方法については、iPS細胞を体細胞まで大きくし器官そのものを作って移植するか、iPS細胞をそのまま治療したい内部に入れて再生を図るか、これらが現在考えられている手法です。

別のエントリーに記載しましたが、iPS細胞を患部に注入した場合、拒絶反応が出ることが報告されています。しかし、どこの器官を再生するために実験したかは記載がありませんでしたので、詳細は不明です。

有毛細胞を再生させる際は関係ないかもしれませんが、あるかもしれません。仮に影響があるとしたら、現在有効な方法として、移植が考えられています。

有毛細胞を移植する場合、どんな方法が考えられるか

有毛細胞を移植する場合、様々な要因で、困難であることが考えられます。

有毛細胞とは、蝸牛といわれる耳の内耳と呼ばれる器官の一つです。蝸牛の中には、リンパ液と呼ばれる液体が入っており、それを振動させ、有毛細胞に音の情報を伝えています。

全ての部位は繋がっている。特に蝸牛は多くの神経が繋がっている

全ての部位は繋がっている。特に蝸牛は多くの神経が繋がっている

一般的に音が耳に入ると、外耳道を通って、鼓膜に音が伝わり、鼓膜で音を増幅させ、その音を耳小骨と呼ばれる骨を伝って蝸牛に届けられます。この耳小骨の先についているものが蝸牛の中のリンパ液を振動させ、その振動を有毛細胞がキャッチし、聴神経を通ってどんな音なのかを脳に伝えています。

有毛細胞には、内有毛細胞と外有毛細胞があります。内有毛細胞の数は、3,500個に対し、外有毛細胞は、12,000個あると言われています。主に損傷を受けるのは、外有毛細胞です。大きな音や、薬事的に受けるものは、外有毛細胞が多いとされています。

ここで重要なのは、有毛細胞は全て聴神経に繋がっていることです。内有毛細胞、外有毛細胞を合わせると、15,500個の有毛細胞一つ一つが聴神経に繋がっており、有毛細胞が感じ取った情報を、聴神経を伝って脳に届けています。

iPS細胞を使って、患部にそのまま注入して再生できれば良いのですが、体細胞にしてから移植となるとかなりハードルが高くなります。損傷具合により変わりますが、膨大な数を移植する可能性があります

そう考えると移植は、相当ハードルが高くなることが予想されます。

移植の話を出すもう一つの理由

移植の話を出した理由はもう一つあります。元々難聴の方はどうするかです。

内耳にiPS細胞を投与し、内耳で再生されたマウスの例は、元々聞こえているマウスに、音響外傷(うるさい音を聞かせて耳を壊した)を起こして実験したものです。

iPS細胞は、その方の遺伝子を使用し、細胞を再生させます。遺伝子を使用する事で、体の適正化をしやすくするのはメリットですが、ある意味元の状態のものができあがります。ということは元々難聴の方の場合に使用したら、同じような聞こえになる可能性が考えられます。

ここから導きだせるものは、当初難聴ではなかったが、何らかの原因で難聴になってしまった場合、再生できるということです。

では、元々の難聴の方の場合は、どうなるのでしょうか。そんなもの関係なしに我々が考えている正常値まで再生できるなら考えなくても良いのですが、仮に当てはまらないとしたら、これらの方法は使えないことになります。

そうなると次に考えられるのは、器官の移植です。他のところから持ってくるしかありません。

しかし、上記の通り、移植となると非常にハードルが高くなります。また、ほかのところから持ってくる場合、適合も見なければなりません。拒絶反応があれば、使用できなくなります。

これらから考えられる事

有毛細胞の再生ができた事は、難聴治療の一つとして偉大な一歩を踏み出しました。しかし、まだまだ先は長いと考えられます。内耳にiPS細胞を投与する手法であれば、体に負担はかかりにくいかもしれませんが、いつ頃効果が出るかもわかりません。

移植の場合は、上記の通り、どのように手術するのかわかりません。移植の場合、そのものを作り出すには、キメラ生命体(動物+人間の遺伝子を混ぜた生物)を作らなければならない問題もあります。

また、マウスでの実験ですので、実際には、人間に適用して問題ないか(拒否反応でないか、体調が悪くならないか)、しっかりと治るのか、検証を行っていかなければなりません。

さらに、脳の方に難聴の原因があった場合、それもiPS細胞の投与で治るのか、移植なのかも考えるととてつもない時間と年月がかかるのではないかと考えています。

現在、私は27歳ですが、私が生きている内に実現が可能かも全く検討が付きません。

あとがき

iPS細胞について、だいぶ前に調べたことを記載してみました。難聴のことはある程度理解していますが、iPS細胞は、ニュース+大衆向けの本で勉強したくらいしか知識はありませんので、参考程度にお考えください。

また、今後、医療技術の発達により、もっと効率のよい治療方法も見つかるかもしれません。

未来はわからないからこそ、良い方向に進む可能性があります。これからのiPS細胞に注目ですね。ぜひ良い方に向かっていって欲しいものです。

そうすれば、数多くの方が救われる未来になりますね。

 

iPS細胞に関するエントリーはこちらにもあります。

リンク:iPS細胞による難聴の治療、一歩を踏み出したiPS細胞の現状

リンク:iPS細胞で難聴を治す、考えられるリスク

リンク:びっくりするほどiPS細胞がわかる本から学ぶiPS細胞

補聴器に関する内容

https://l-s-b.org/hearing-ability-improvement-summary/

基本的な改善思考

https://l-s-b.org/2018/10/basics-of-improvement-hearing-aid/

https://l-s-b.org/2018/09/an-idea-of-improvement/

補聴器の形状

https://l-s-b.org/2018/10/shape-and-feature-of-hearing-aid/

補聴器の性能

https://l-s-b.org/2018/10/basics-of-hearing-aid-performance/

補聴器の調整

https://l-s-b.org/2018/10/adjust-the-hearing-aid/

補聴器の適正

https://l-s-b.org/2014/10/measure-hearing-aid/

補聴器の効果を上げる思考

https://l-s-b.org/2019/06/environmental-arrangement/

補聴器で改善した事例

補聴器の使い方

https://l-s-b.org/2018/12/use-a-hearing-aid-smoothly/

補聴器に慣れる

https://l-s-b.org/2018/12/getting-used-to-hearing-aids/

耳が痛くなる場合は?

https://l-s-b.org/2018/12/i-feel-pain-in-my-ears/

耳から外れる場合は?

https://l-s-b.org/2018/10/to-improve-out-of-ears/

大きい音が辛い

https://l-s-b.org/2016/07/relieve-sound/

補聴器がハウリングする

https://l-s-b.org/2018/10/harrowing-countermeasures/

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深井 順一|パートナーズ補聴器
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1986年、7月1日生まれ。生まれつきの難聴者で小学2年生の頃から補聴器を使っています。私にとって補聴器とは、難聴の方の生活を支える道具です。この店では、生活を支えられる補聴器を提供したり、支えられるサービスを提供する事で、聞こえの改善、生活の改善に貢献できるようにしています。

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