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東京都墨田区で補聴器の販売をしている難聴者のブログ。補聴器や耳に関する事を書いています

論文から導きだす認知症+難聴を改善させる方法

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耳鼻咽喉科医が主催している聴覚医学会にて、認知症の方に関する補聴器適合の論文が出されていました。この論文は、非常に価値が高い論文であり、認知機能障害の方の補聴器適合に関して、どのようなものなのかをうつしだしています。

リンク:認知機能障害のある難聴高齢者に対する補聴器適合

こちらから読み取れる内容は、認知症の患者さんに補聴器を装用した事で得られた実態です。補聴器を装用してうまく行ったのか、それとも難しかったのか、また、認知症の方には、どのような傾向があるのか、このような内容が記載されていました。

では、実際にどんな事が記載されていたのでしょうか。今回は、認知症の方に補聴器を装用する事の実態という事で、どのような傾向があるのか、どんな事がわかったのか、そしてここからどんな事を気をつけていけば良いかについて、載せていきます。

早速見ていきましょう。

論文の要旨

まず、論文の要旨(検証した結論)としては、

国立長寿医療研究センター耳鼻咽喉科の補聴器外来初診患者184名において,認知機能障害の合併の有無によって聴力等の特性に違いがあるかを検討した。認知機能障害の合併が確認できたのは59名で,年齢等を調整しても語音弁別能が有意に悪かった(p<.0001)。また認知機能障害のある難聴高齢者で補聴器購入にいたった群と見合わせた群はほぼ同数であり,年齢や同居家族人数,本人の意思,聴力に違いがあるかどうか,比較したが,有意な違いは認めなかった。さらに補聴器購入にいたった群において半年以上経過観察し,問題点および有効性について個々に検討したところ,半年たっても装用が不安定な症例や認知機能・全身状態の悪化によって補聴器装用が中断された症例が38%(8/21)みられた。半年以上安定装用ができていた症例は48%(10/21)で,「会話や笑顔が増えた」,「夜間不穏や耳鳴・幻聴が減った」という効果が認められた。

認知機能障害のある難聴高齢者に対する補聴器適合より引用

この内容を少し崩して説明しますと、耳鼻咽喉科へ補聴器相談に行った人の中で59名が認知症と難聴が発症している人がおり、この59名の傾向としては、言葉を理解する力である語音明瞭度(語音弁別能)が低い事がわかりました。語音明瞭度(ごおんめいりょうど)とは、言葉を理解する力であり、難聴になると音が聞こえる事と言葉が理解できる事は、別として考えます。音が聞こえないから言葉が理解できないというのは、もっともですが、それ以外にも、音が音として認識できないがために、言葉を聞いても言葉として捉えられず、何を言っているのかわからないという事があります。この傾向が認知症の方には、強く出たという事です。

言葉を聞き取る力に関しては、基本的に、測定した結果が60%以下であった場合、補聴器の効果を感じる事がかなり少なくなり、70%くらいないと補聴器を装用しても良好にはなりにくい傾向があります。この論文内で調べた結果では、補聴器を購入した方は、61.7%、残念ながら購入まで至らなかった方は、60.7%です。どちらのケースも微妙なラインですが、少々効果が出にくい傾向があると見る事ができます。

補足として59名の内訳は、初めて補聴器の相談をした方が42名、その中で購入まで行った方は、21名、見送りになったのは、21名です。それ以外の17名に関しては、元々補聴器を持っている層であり、その内の7名は補聴器を新しくし、残り10名は、補聴器をそのまま継続して使用しています。

初めて補聴器の相談をし、さらに購入された方の中で、半年間色々見てみたら補聴器装用が中断された例が38%(8/21)、半年以上安定装用できた例は48%(10/21)でした。ここは、驚愕な数値です。なんと補聴器を購入しても半分が使用できなくなっています。やむを得ない事情があれば、別ですが、果たして、どんな事があったのでしょうか。非常に気になるところです。

補聴器購入後の状況

では、補聴器購入後についてもう少し詳しく見ていきましょう。良好な方々とそうでない方々についても調べた結果が載っていますので、引用します。

新規補聴器購入にいたった21名において半年以上経過を追えたのは18名あった。毎日数時間以上安定して使用できている者は10名で,独居の者は1名もなく,全例家人による装用確認,電池確認といったサポートがあった。安定使用できていなかった8名の内訳は,2名は本人が補聴器装用を嫌がって時々使用するのみ,3名は骨折・肺炎・認知症悪化で装用中断,3名はほぼ毎日装用はしているものの,電池が切れたままでも気づかない・耳垢による音孔つまりに気づかない・耳栓がうまく挿入できないなど装用状況が不安定なままであった。これら3名は患者本人の装用の意思はあるものの,独居・施設入所者など家族のサポートが得られにくい状況にあった。

認知機能障害のある難聴高齢者に対する補聴器適合より引用

毎日安定して使用できる方の共通点は、どの例もご家族の方や家にいる方が装用の確認、電池がしっかりあるかの確認など、補聴器に関するサポートがあった 事がわかります。言い換えれば、補聴器を安心して使用できる環境があった方であるという事です。

装用が難しかったケースでは、補聴器を嫌がるケース、症状の悪化で中断したケース、補聴器のサポートがなくご本人のみでは難しかったケース、これらがありました。

ここから読み取れる事は、もし認知症の方に補聴器を装用する場合、ご家族、あるいは周囲の方のサポートの質により、使用を続けられるか、補聴器を使用しなくなるかも関わるという事です。ご本人が使用する意志がある事は、もちろんですが、その意志をサポートしてあげるとより良くなる可能性があるという事でもあります。

ここは非常に重要なポイントとなります。

認知症がある方への補聴器対応

さて、論文の主要な部分は、記載しました。ここから、補聴器に関する対応について見ていきましょう。上記の内容で、認知症の方に関する状況はわかりました。次は、その対策になります。補聴器を装用し、改善していく事に関して

  • 補聴器は早期装用する
  • ご自身も改善に協力する
  • 話し方を変えてみよう

これらにわけて記載していきます。重要なのは、家族一団となって改善方法に取り組む事です。

補聴器は早期装用する

補聴器については、早期装用が非常に重要です。耳の場合、聴力が低下したまま放っておくと言葉を理解する力まで低下してくる事があります。この力は、一旦低下してしまうと補いようがなく、改善させる事ができません。さらに、この力が低下すると低下した分、補聴器の効果が薄くなります。補聴器の効果は、この力がどれだけあるかで大きく左右されますので、この力がないと聞こえを改善させる事が困難になります。その力を表すのが、語音明瞭度であり、語音明瞭度のパーセンテージになります。

要旨に記載した通りですが、一般的には、言葉を聞き取る力が60%以下になると補聴器の効果を感じにくくなり、70%くらいあると補聴器の効果を感じやすくなります。この力を失わないようにする方法が補聴器の早期装用です。現に早めに補聴器を装用した方は、90%だったり、80%というような高い方もいらっしゃいます。全てが全て高い方ばかりではありませんが、早期装用は、言葉を理解する力を低下させないようにするために役立っているのは、事実です。

認知症になった方の明瞭度は、低い傾向があります。しかし、さらに低下させないようにするためにも補聴器は、早期装用する事をお勧めします。低下すると低下するだけ、補聴器の効果は薄くなりますので、誰も喜ばない結果になります。耳の聞こえにくさに気付いた時に装用するのが最も重要です。

ご自身も改善に協力する

認知症患者の検証論文を見てみると長く使用できている方、あるいは、装用状況が良好な方の共通点に、周囲の方のご協力があります。ここから読み取れるのは、周囲の方が協力してくださる事でも装用しやすくなる、あるいは、補聴器を長く装用できる事です。

一見面倒に感じるかもしれませんが、そのような事はありません。認知症の方が補聴器を装用してくれれば、今までより楽に伝えられるようになりますし、些細な事で言い争う事も少なくなります。大抵の物事は、誤解によって生じている事が多く、耳が聞こえにくくなると意志疎通が難しくなり、誤解も増えてきます。このような部分も軽減できるようになります。

協力する事で、巡り巡って、自分自身のためになるでしょう。

話し方を変えてみよう

認知症の方は、言葉の理解力が低下している傾向があります。そのため、話し方にちょっとした工夫を加える事で、こちらの意志を伝えやすくなります。それは

  • 話す際は、合図をする
  • 正面を向いて話す
  • ゆっくり話す
  • 短い言葉で話す
  • できるだけ静かな中で話す

この五つです。言葉の理解力が低下しているのは、事実ですが、伝え方次第で現状より、より伝わりやすくする事も可能です。

話す際は、合図をする

いきなり話しかけてしまうと聞く準備ができていないために、わからない事があります。そのため、話す前に合図すると伝わりやすくなります。合図は、肩にトントンと少し触れたり、視界に入る位置で、手を振ったりするのも良いでしょう。このようにワンクッション置いてお話しすると伝わりやすくなります。

正面を向いてお話しする

難聴になるとほんの少しの音の差が聞きにくさに繋がってしまいます。そのため、正面からお話しすると最も伝わりやすくなります。何かしながら言ったり、視界に入らない位置から言うと音が極端に小さく聞こえる事がありますので、伝わりにくくなります。正面からお話しするようになると何も考えずにお話しする際より、聞き返される率も少なくなってきます。

ゆっくり話す

ゆっくりお話しする事でもお話しが伝わりやすくなります。どのくらいゆっくりかは表現しづらいのですが、普段より少しペースをゆっくりする程度で構いません。そうするだけでも、聞き返される率も少なくなるでしょう。

短い言葉で話す

「お父さん、今はいい天気だけど、午後から雨がふるようなので、傘を持つのを忘れないようにして、風邪をひかないようにね」と文があったとしたら、「お父さん」「傘持っていくのを忘れないようにね」「午後から雨が降るようだから」と一つ、一つを短い言葉で伝えられると伝わりやすくなります。

短い言葉には、厳密には二つあり、一つは、結論からお話しする事、もう一つは、一つ、一つの話しを短く言う事、この二点です。この二つができると難聴の方以外にもお話しが伝わりやすくなります。

できるだけ静かな中で話す

可能な限り、邪魔する音がない静かな中でお話しできると、それだけでも理解しやすくなります。逆に、騒がしい中であれば、音声で無理に伝えようとせず、スマートフォンのメモ機能で必要用件を伝えたり、紙に字を書くなどして、目で伝えられると聞き返されたり、伝わりにくいという事が少なくなります。

騒がしい中では、極端に聞こえにくくなりますので、音声で伝えようとするとかなり疲労しがちです。その場合は、思考を変えて目で確認できるもので伝えた方が、手間も負担もかからなくなります。

補聴器対応 まとめ

認知症の方に補聴器を装用する場合は、これらの事に気をつけられるとより改善しやすくなります。早期装用は、重要ですし、ご家族や周囲の方のサポートもあると継続しやすくなります。さらに、言葉を理解する力が低くなりがちですので、話し方や伝え方に気をつけられれば、より意思疎通がしやすくなります。

認知症になった方は、言葉を理解する力が低くなる傾向があります。そのため、思ったように補聴器そのものの効果も見込めないケースも出てきます。しかし、補聴器を装用する意味が全くないか……を考えてみるとそのような事はありません。少しでもご家族様の協力をいただけると本人も使用しやすくなりますし、聞こえやすくなります。

ご家族の協力がいただけるといただける程、本人の聞こえも改善しやすく、結果、ご家族との関係も良好になりやすくなります。家族一団となって改善させていくことが最も重要です。

あとがき

認知症の方への補聴器適合という事で、記載してみました。このケースは、どちらかというと難しい症例の一つです。語音明瞭度が低くなる症例は、基本適合が難しく効果そのものを感じない、あるいは、聞こえる事よりも聞こえない事の方が強く感じてしまい、補聴器の効果そのものを認識しづらい傾向があります。そのような意味でもご家族、あるいは、周囲の方のサポートがあると、よりご本人も使用しやすくなります。

補聴器を販売していた身から言えるのは、いかに語音明瞭度が下がらない内から補聴器を装用するかです。この論文の結論にも、認知症になる前に、補聴器装用する事が重要であると記載されています。それは、語音明瞭度が下がったら補いようがない事、語音明瞭度の善し悪しが補聴器の善し悪しに直結するからに他なりません。まだまだ補聴器に関しては、適切に伝わっていない感覚がありますので、明瞭度が悪くなってしまった後に装用するケースが後をたたず、効果が感じにくい……となりやすい現状があります。もし、こちらをご覧になっている方の身近に困っている方がいらっしゃったら、早めに装用する事の重要さを伝えてみてください。その情報は、装用する本人にとっても装用を支援する周囲の方にも有益になるでしょう。

効果が少なくなってから装用するのと効果がある内から装用するのとでは、補聴器の効果に雲泥の差が出ます。本当に重要なのは、このような知識の拡大にあるのではないかとも私は思います。そして、残念ながら進んでしまった方は、進んでしまった方で、補っていく必要があります。進んでしまった場合でも補聴器がないより、聞きやすくはしてくれます。

この内容が、少しでも環境の改善に役立てたのなら幸いです。

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この記事を書いた人:深井 順一
自己紹介
聞こえにくい人を支援するお店、パートナーズ補聴器、代表。生まれつきの難聴者である事、補聴器の販売をしている事、この二つの視点で、ブログを書いています。お店では、耳の状態を理解した後、効果的な補い方を導き出し、聞こえの改善を行なっています。私に関する内容は、書いている人の詳細になります。当店の情報は、こちらにまとめています。場所は、東京都墨田区の本所吾妻橋駅(都営浅草線)より徒歩3分のところにあります。

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