高度難聴とは、聴力低下のレベルでも比較的、重いレベルで、補聴器がないと日常生活上の音は、ほとんど聞こえないレベルの難聴です。おそらく、ここまで聞こえにくさを放置している人は、いないかと思いますが、補聴器がなければ仕事や生活そのものに支障が出てしまう難聴レベルになります。
では、このような難聴の方は、どのように補聴器で聞きにくさを改善させれば、聞こえにくさをなるべく改善させることができるのでしょうか。
補聴器は、今現在の医療技術では、治療が不能な方が使用する機器です。耳が治るというレベルは、できないのですが、以下のように補えば、補聴器ができる限りの改善はできるようになります。
なお、耳を診てもらっていない方は、まず耳を診てもらいましょう。状況によっては、耳鼻咽喉科を受診することで、治る状況も存在します。補聴器を考えるのは、治療ができない耳であることがわかった後になります。
目次
高度難聴をよくさせるために必要な3つの知識
どんなものも改善させるために必要なのは、どのようにしたらよくなるのか。という知識になります。こちらに関しては、
- 耳の補い方
- 聞こえを改善させる数値
- 高度難聴の方を補える補聴器
の3つについてまとめていきます。この3つの知識があれば、補聴器でできる限りの改善を行うことができます。
耳の補い方
耳の補い方とは、聞こえにくい方の耳を補う方針を示します。耳には、様々な状況があるため、耳ごとにベストな改善方法は、異なります。一般的に補聴器は、聞こえにくい耳に装用し、聞こえにくい耳そのものをよくさせるものですが、その方法では、改善できない耳も存在します。
初めに行うのは、自分の耳の状況を理解することであり、その状況下から、どのように補ったら聞きにくさをなるべく改善できるのか。それを知ることです。こちらについては、
- 耳を理解する基本
- 実際の補い方
の2つに分けて記載していきます。
耳を理解する基本
耳を理解する基本として、耳には
- 音が聞こえる
- 音声が理解できる
の2つの軸が存在します。音が聞こえる部分は、聴力検査で理解することができ、音声が理解できる部分に関しては、語音明瞭度測定(ごおんめいりょうど測定)で調べることができます。
このように分かれている理由は、音が聞こえるからといって必ずしも音声が理解できるとは、限らないためです。
特に補聴器を装用して改善させる感音性難聴の方は、音を感じる耳の神経が悪化しているケースが大半ですので、音は、聞こえるけれども何を言っているのかよく分からない。というケースが多くなります。
そのため、音はどれだけ聞こえるのか。音声は、どれだけ理解できるのか。それを初めに理解する必要があります。
聴力検査
こちらは、やったことがある方が多いかと思います。どの音が、どれだけ聞こえているのか。を調べる検査です。
見方に関しては、この通りになります。基本的に気導の部分(○と×)がそのまま自分が感じている音の感覚です。
聴力の目安は、このようになります。周波数の数が多いため、平均聴力を調べ、その数値が当てはまる部分で、○○難聴、と決まります。
語音明瞭度測定
音の次は、音声がどのくらい理解できるか。になります。音声の理解力を調べる測定は、語音明瞭度測定と呼ばれています。この測定は、非常に重要で、この数値がある一定より下がっている場合は、補聴器の効果が見込みにくい耳となります。
聴力検査と同じように防音室の中で行われ
ヘッドホンをつけて測定を行います。
あ、き、しなどの単語が聞こえてきますので、それを聞こえた通りに、紙に書き込みます。
その後、採点を行い、どのように聞こえているのか。それを調べます。
ちゃんと聞こえる音量レベルから始め、どのくらい音声が理解できるのか。それを見るのが、語音明瞭度測定です。
明瞭度表は、このようになります。見方は、単純で、縦軸が、正解数、横軸は、音量です。○が右で、×が左を表します。補聴器の効果を見定める場合にみる数値は、それぞれの一番良い%になります。
重要なのが、こちら。パーセンテージ別、意味です。そして、補聴器を装用して改善できるとされる数値は、50%以上となります。言い換えれば、測定をした後、一番良い数値が、50%以上であれば、効果は、見込むことができ、それ以下であった場合は、かなり聞きづらさを感じやすい。というように見ることができます。
ここで重要なのは、聞こえにくい耳に補聴器を装用しても改善が厳しい耳がある。ということを理解することです。それが理解できれば、なぜ補い方が重要になるのか。その意味も自ずとわかるようになります。
実際の補い方
では、実際の補い方に関して記載していきます。
- 両耳とも明瞭度が良いケース
- 片耳のみ明瞭度が悪いケース
の2つしかパターンとしては、ありませんので、この2つに関して記載していきます。
両耳とも明瞭度が良いケース
この場合は、両耳とも補聴器を装用し、なるべく聞きにくさを改善させていきます。
仮に聴力がこのくらいで
耳の明瞭度に関して調べてみると、上記のような結果だったとします。
このような場合は、両耳に一般的な補聴器を装用し、なるべく聞きにくさを改善した方が、聞こえにくさに困ることを少なくできます。
片耳のみ明瞭度が悪いケース
このようなケースは、バイクロスと呼ばれる補い方を行い、なるべく聞きにくさを改善させていきます。
上記のような聴力でも
明瞭度がこのように片耳のみ50%を下回り、かつ、もう片耳の明瞭度が70~80%以上と良い場合になります。このような場合は、明瞭度が低い側に補聴器を装用しても、音声の理解は、かなりしづらくなりますので、聞こえの良い耳を利用し、なるべく聞きにくさを改善させます。
バイクロスとは、聞こえを補える耳は、そのまま音を補い、音を入れても補えない、効果がほとんど見込めない耳にクロスと呼ばれる音の転送機をのせ、聞こえる耳に音を転送させる機器です。形状は、一般的な補聴器と変わりありません。
補うイメージとしては、このようになります。聞こえを補える耳は、補聴器を装用し、聞こえを補えない耳には、クロスを装用します。すると、聞こえない耳側の音を聞こえを補える耳側に転送してくれます。
今現在の補聴器には、このように聞こえを改善させるものもあります。現在の医療技術では、明瞭度が下がるとどうやっても改善ができないため、仮にこちらに当てはまる場合は、このようにして、なるべく聞きにくさを改善させていきます。
耳を補う方針のまとめ
耳には、音を入れても効果が見込めない耳も存在します。そのため、耳の状態を理解し、補い方から理解する必要があります。どんな耳にも補聴器を装用すれば、たちまちよくなるのであれば、こんな面倒なことをしなくて済むのですが、現実は、そうではありません。
ちゃんと耳の状態を理解し、その方にあった補い方をする。聞こえにくさをなるべく改善させるのであれば、耳の状態に合わせた補い方から始める必要があります。
聞こえを改善させる数値
次に重要になるのは、聞こえを改善させる数値です。言い換えれば、どこまで聞こえを改善させるか。になります。補聴器で改善させるべき部分まで、音を補えれば、それなりに改善はできます。
それでも補聴器でできることは、限度があるのですが、なるべく補聴器の限界を引き出すことができます。
こちらでは
- 確認方法
- 改善の目標値
の2つに関して記載していきます。
確認方法
改善値を教えたいのは、やまやまなのですが、まずは、どのようにそれを確認するのか。それを理解することが重要です。
まず、補聴器には、補聴器を装用した状態を数値化する測定があります。聴力検査の補聴器版で、主に音場閾値測定(おんじょういきち測定)と呼ばれるものです。
聴力検査と同じように防音室で行われ
今度は、スピーカーから音を出します。
そして、スピーカーから出た音が聞こえたら、ボタンを押して知らせる。それが、音場閾値測定です。まさに補聴器版の聴力検査です。
見方に関しては、このようになります。▲が補聴器を装用した状態で、△が補聴器を装用していない状態です。
そして、この△ですが、聴力検査で反応があった数値と近い位置に出てきます。つまり、こちらを調べるだけで、補聴器を装用し、どのくらい聞こえがよくなったのか。それを理解することができます。
補聴器には、このようにして、聞こえを数値化することができます。視力を可視化し、メガネやコンタクトレンズの効果を確かめられるように、補聴器にも、可視化して、効果を確かめる方法が存在します。
改善の目標値
聞こえを数値化できるということは、当然、目標値も存在します。こちらでは、
- 耳鼻咽喉科が出している改善の目標値
- 私がしている改善の目標値
の2つに関して記載していきます。
耳鼻咽喉科が出している改善の目標値
耳鼻咽喉科では、補聴器の適合検査の指針を出しています。厳密には、聴覚医学会という耳鼻科の中でも補聴器に詳しい先生方が、補聴器の効果を保証するための適合検査についてまとめたものです。当然ですが、音場閾値測定に関しても記載があります。
(3)評価方法
ファンクショナルゲインが聴力の半分(ハーフゲイン)であるか、装用域値が1000Hzで35dB以内であればよい。ファンクショナルゲインは、低音域ではハーフゲインより少なくてもよく、高音域の利得は補聴器の性能上ハーフゲインが得られない場合がある。
評価例(図11)
補聴器適合例と適合不十分例を示した。▲印は低音及び高音部をのぞき非装用時の域値のほぼ半分のファンクショナルゲインを得ており適合例と言える。■印の場合は、ゲインが不足しており、適合不十分例といえる。
引用しますと、このようになります。高度難聴の方の場合は、中音域(1000Hz)が△の位置の半分くらい改善できて、低域(250~500Hz)の部分は、△の半分まで改善できなくてもよく、高域(2000~4000Hz)に関しては、△の半分まで改善できることは難しいので、そこまで上げなくても良い。となります。
簡単に言いますと、1000Hzだけ、△の半分まで改善でき、そのほかは、補えるだけ、補えれば良い。となります。1000Hzが35dBがあれば良いとも書かれていますが、高度難聴の方は、そこまで目指せる方は、少ないので、△の位置の半分くらいを目指します。
これが聴覚医学会が定める基準です。
なお、論文そのものを見たいという方は、こちらをご覧ください。PDFで誰でも見れるようにネット上に公開されています。なお、一般の方が内容を理解するには、かなりハードルが高くなります。主に医者向けに書かれているためですね。
リンク:Audiology japan 53,2010 補聴器適合検査の指針(2010)
私がしている改善の目標値
私自身も補聴器の販売をしていますので、当然、基準を設けています。それは
となります。ほぼ、聴覚医学会のものと同様ですが、異なるのは、1500Hzになります。私自身が、音量閾値測定をお客様に繰り返してきてわかっているのは、この部分も1000Hzと同じように改善できると聞こえの改善がされやすいということです。
どんなものも改善できないより、改善できた方が良いため、私は、このように基準を設け、そこまで達成できるよう音を入れています。
なお、どちらにも共通することですが、その部分まで聞こえを改善させられればそこまで改善させる。となります。中には、そこまで音を入れると音が大きくて使いづらい、うるさい、辛い、となる場合もあります。そのようなケースは、使える位置まで音量を下げ、補聴器を使えるようにします。
耳の感覚は、人によって異なりますので、そこまで目指せる方もいれば、残念ながら目指せない方もいます。目指せない方の場合は、使える範囲内に音を抑え、使える状態にしていきます。
聞こえを改善させる数値のまとめ
基本的に補聴器は、どこまで聞こえさせるか。それにより、聞こえが決まります。性能以上にこの部分が重要です。
そして、補聴器の調整の後、どのように聞こえているのかの確認。を繰り返し、どのように聞こえており、かつ、目標値まで来ているのか。来ていない場合、感覚的に大きくできるのであれば大きくする。できないなら、そこを限界値として見定める。などして、補聴器を調整し、耳に合わせていきます。
これが補聴器で聞こえを改善させる基本です。
高度難聴の方を補える補聴器
では、高度難聴の方を補える補聴器に関して記載していきます。こちらに関しては
- 補える補聴器の基本
- 補える形状
の2つに分けて記載していきます。
なお、補えるというのは、上記の目標値まで補える補聴器。という意味で、記載していきます。
補える補聴器の基本
補える補聴器に関してですが、基本的にカタログに○○難聴用と書かれています。
こちらで、高度難聴用と書かれているものであれば、補えることが多いです。この○○難聴用というのは、補聴器に備わっている音の出力から、おおよその対応難聴レベルを決めています。
ですので、この部分が自分自身の平均聴力のものと合っていれば、ほとんどのケースにおいて補えます。※中には、特例もあります。
補える形状
では、具体的には?ということで、補聴器の大半を占める
- 耳かけ形補聴器
- 耳あな形補聴器
の2つに関して載せていきます。
耳かけ形補聴器
こちらの場合、
- RIC補聴器
- パワー形の補聴器
の2つが対象になります。
この2つの違いは、このようになります。そこまで大きな違いは、ないため、仮にこの2つから選ぶ場合は、好みでも良いかと思います。多いのは、パワー形の方を選択されるケースです。
耳あな形補聴器
耳あな形補聴器の場合は
- 高出力タイプのカナル形
- フルカナル形
の2つです。高度難聴の場合、人によっては、厳しいケースもあるのですが、なんとか補えるケースもあります。
この2つは、形状の違いしかありません。大きくても良いなら、フルカナル形、小さい方が良い場合は、カナル形になります。ただ、カナル形の場合は、ハウリングという現象が起こりやすくなるので、その点だけ注意です。
まとめ
高度難聴の場合、ある程度音が強く出るものが必要になるため、形状が大きくなる傾向があります。どのような場合においても聞こえを補う部分を優先すれば、自ずとどの補聴器が良いのかは、わかるようになります。
高度難聴を補聴器で改善させることのまとめ
では改めてまとめていきます。基本的に改善させる上で重要になるのは、
- 耳の補い方
- 聞こえを改善させる数値
- 高度難聴の方を補える補聴器
の3つになります。耳の補い方では、耳には、音を入れても残念ながら改善できない耳があること、2つの補い方に関して、ご紹介しました。それは、残念ながら補聴器を耳に装用しても聞こえが改善できない例があるためです。聞こえの改善を最大限、高める場合は、自分の耳がどのようになっているのか。どう活かせば良いのか。そこから考えていく必要があります。
そして、聞こえを改善させる数値では、補聴器の聞こえの基本となる、どこまで聞こえを改善させるか。それについて記載しました。この部分で補聴器の聞こえが決まるため非常に重要な部分です。比較的金額がお安い補聴器でも聞こえが改善できるのは、この基本部分は、どの補聴器でも調整して、目指せるためです。補聴器の基本的な聞こえは、性能で決まるのではなく、どこまで音を入れるかで決まります。
最後は、補える補聴器です。簡単に言いますとちゃんと補えるところまで出力がでる補聴器は、どれか。になります。この部分に関しては、最近の補聴器は、えらく出力の幅が広がってきていますので、自分の難聴レベルが書いてある補聴器であれば、大半のものは、補えます。
これらを理解し、補聴器の選定、調整に関して考えていければ補聴器で補える部分は、補えます。それでも補聴器の特徴上、聞きにくいところが出てしまうのは、誠に申し訳ないのですが、補聴器でできる限りのことは、できるようになります。
こちらの内容が補聴器を選ぶ上で参考になれば幸いです。
当店では、聞き取りづらさにお困りの方へ補聴器による聞こえの改善相談を行なっています。
このお店では、安心してご相談いただくために生まれつき難聴で補聴器を使っている当事者が実際に対応させていただき、
- 聞こえにくい事によるお困り事
- 聞こえの改善
- 補聴器に関するご相談(ご質問)
これらについて、誠実にご対応しています。
完全予約制の一対一で対応しておりますので、聞いてみたい事、ご相談したい事がありましたら、お気軽にご相談ください。
相談を希望される方は、まずは、お問い合わせフォームより、ご連絡願います。
なお、当店の内容や場所、聞こえの改善に関しては、以下にまとめています。