補聴器の音の世界

補聴器を初めて装用する方に伝えたい装用後の世界

補聴器を装用する際、どのような事が身に起こるのでしょうか。補聴器を装用する時のイメージは、できるかもしれませんが、実際にどのような事まで起こるのかを適切に理解できている方は、少ないように感じています。

補聴器は、良くも悪くも聞こえるようにしてくれます。注意が必要なのは、都合の良い聞こえには、してくれない事です。

今回は、補聴器を装用している私自身が、補聴器を装用した時に起こる事を記載していきます。これらの内容をご覧になり、補聴器を装用する際、少しでも抵抗が少なくなれば幸いです。

「こんな変化がある」「装用するとこう変わる」というものが予めわかっているケースとわからないケースでは、補聴器の受け入れにも差が出ます。初めて補聴器を装用する方には、装用後に起こりうる事を予め知っておくと適切に対応しやすくなると考えています。

では、早速見ていきましょう。

補聴器を装用すると何が起こるのか

補聴器を装用すると自身の身に何が起こるのでしょうか。良く聞こえるようになる……と、このひと言で全てが伝われば良いのですが、中々想像が付かないのが本当のところです。補聴器を装用すると

  • 聞こえなかった音が聞こえるように
  • 今まで聞こえた音がさらに大きく聞こえる
  • 音の感覚が変化する

主に、この三つが起こります。

では、適切に補聴器を理解するために、見ていきましょう。

聞こえなかった音が聞こえるように

聞こえなかった音が聞こえるように……このように記載すると「そりゃそうだ」と当たり前に感じるかもしれません。しかし、この事を意識できている方は、意外に少ないです。と言いますのも難聴になると音が聞こえていない事に気が付かないため、聞こえていない音がどれだけあるのか、自分自身は、どれだけ聞こえていないのかがわかりません。音は、目に見えるものではありませんので、聞こえないと気が付きようがないのです。身の回りには、非常に多くの音が存在しているのですが、それがどれだけ聞こえていないのかは、難聴者自身意識しようがありませんし、理解する事はできません。

補聴器を装用するとびっくりするのは、この部分です。今まで聞こえていなかった音が一斉に聞こえてくるようになりますので、いかに自分が聞こえていなかったかを痛感します。中には、聞こえる音が多いと表現する方がいますが、それは、それだけ聞こえていないから聞こえるようになっています。

補聴器を装用すると細かい小さい音が良く聞こえるようになります。初めは、嫌になってしまうくらい聞こえてきます。

補聴器は、聞こえる範囲をものすごく拡張します。私自身補聴器を装用しているのですが、補聴器がないと周囲1〜3mの大きい音しか聞こえません。しかし、補聴器を装用すると身近にある細かい音は、もちろん、5〜8m先の声に気付いたり、もの音に気が付く事もあります。

補聴器は、それだけ聞こえの範囲を拡張します。こんなに聞こえるようにしてくれるのが補聴器です。

今まで聞こえていた音がさらに大きく聞こえる

難聴者である私から、難聴の特徴を言うと「難聴とは、自分にとって小さいと思う音だけ聞こえない状態」だと考えています。耳の聞こえが低下しているのは、そうですが、低下していたとしても聞こえる音は、存在しています。現に、この内容をご覧になっているあなたが難聴であったなら、聞こえる音もある事を理解しているのでは、ないでしょうか。

音が聞きにくくとも、なぜかはっきり聞こえてくる音は、身近にも多くありますね。例えば、お手洗いの流す音、台所の水の音、食器がぶつかる音、ドアをガチャン!と強く閉めた時に聞こえる音。多くの方は、難聴であったとしてもこのような音が聞こえているはずです。大きい音は、難聴であっても聞こえます。それは、私自身も難聴者だからこそ、わかります。それ故「難聴とは、自分にとって小さいと思う音だけ聞こえない状態」と私は、考えています。

補聴器を装用するとこれらの音は、今聞こえる感覚より、当然大きくなります。聞こえるようにしているので、当たり前と言えば、当たり前の事です。しかし、この部分をしっかり想像できている方がいるかと言えば、あまりいません。たまに「よくよく考えたら難聴なのに聞こえているという事は、そもそもの音が大きい音なんだな」とお客さんが気付く事もありますが、そこまでたどり着く方は、少ないように感じています。

補聴器を装用すると難聴であっても聞こえる音は、今まで以上に大きく聞こえます。爆音で聞こえる事はありませんが、大きく聞こえてくる事は、理解しておきましょう。特に高い音は、性質上、嫌な感覚があります。大きく聞こえるものには、意外に高い音が多いので、ここは、知っておきたいところです。

音の感覚が変化する

上記の二つとは、異なる概念なのですが、補聴器を装用すると聞こえ方が変わりますので、音の感覚も変わります。言い換えれば、音の価値観が変化します。例えばこちらの図を見てください。

audio-pries

この図は、オージオグラムと呼ばれている図であり、補聴器を装用している状態と装用していない状態を示しています。図の説明に関しては、こちらをご覧下さい。もし、オージオグラムについてご存知なければ、オージオグラム自体の見方を知ると、より耳の事を理解する事ができます。

リンク:オージオグラムの見方と検査数値から見る耳の聞こえにくさ

黒い▲が補聴器を装用した状態で、白い△は、補聴器を装用していない状態になります。オージオグラムの見方にも記載している通り、この図は、人が聞こえる平均の値を0で合わせているという特徴があります。そのため、補聴器を装用していない、すなわち難聴になった耳を見てみると低い音より、高い音の方が、非常に聞きにくくなっている事がこの図から読み取れます。2000Hzの音は、70dBと記載されていますが、4000Hzは、90dBとなっています。これは、4000Hzの方が、2000Hzより20dBも聞こえの平均値より値が下がっている事になります。

では、このような聴力だとした場合、普段の音は、どのように聞こえているのでしょうか。おそらく高い音などほとんど感じていない事が想像できます。この値は、最小可聴閾値(その人が感じる最小の音)で記載されていますので、その値より、大きい音しかこの耳の方は、音を感じていません。言い換えれば、2000Hzでは、70dBを超える音量からやっと聞こえるようになる事になります。それ以下の音量では、音を感じる事ができません。音というのは、ある周波数のみが聞こえているのではなく、様々な周波数が合わさって一つの音を作り出しています。そのため、高い音が聞こえないと聞こえてくる音の音質も異なります。

さて、このような耳に、上記の図のような補聴器を装用したらどのようになるでしょうか。補聴器を装用している状態は黒い▲になります。黒い▲は、綺麗に横一列に並んでいますね。オージオグラムの作りから考えるとこのように横一列に並ぶのが最もベストです。耳の感覚の事を考えて、このような聞こえにしたとすると高い音が非常に聞こえるようになります。今まで聞こえていなかった音がものすごく聞こえるようになりますので、当然といえば当然です。聞こえるようになるのは、上記の二つ(今まで聞こえなかった音が聞こえる事と今まで聞こえていた音が大きく聞こえるようになる事)に加えて、音質の変化があります。

補聴器を装用すると音質も変化します。その結果、音の価値観も変わります。この変化は、聞こえが低下すると低下する程、強い違和感を感じる傾向が多くなります。それもそのはず、今まで聞いていた音がガラッと180度変化しますので、当然と言えば、当然です。感覚というのは、その人が感じてきたものの積み重ねで、善し悪しを決めています。今まで聞こえにくいまま聞いてきたとはいえ、急激に感覚を変えると当然違和感は、感じるようになります。

耳は、感覚器官です。感覚を変えるというのは、一般的には大変な事です。例えば、今まで履き慣れた靴が履けなくなり、新しい靴にしなければならない場合、初めは、靴擦れを起こし、皮が剥ける事もあります。それでも履き続けていくと、靴擦れは、起きなくなり、快適に履けるようになります。

ゴルフのドライバーやパターもものが異なれば、使い勝手が変わります。その度に何度も打って感覚を掴めると、使い勝手が良くなります。釣りに使用する竿も同じで、竿の長さ、固さ、重さ、糸の長さや重さなど、様々なものが異なれば、また使い勝手が異なります。誰もがみな自分に馴染んだものが一番使いやすいですし、安心です。しかし、補聴器を耳に装用するということは、この馴染んだ感覚を否定する事になります。

補聴器を装用すると聞こえてくる音の変化により、音の価値観が変化します。この変化は、聞こえるようになるための変化ですので、良い変化なのですが、感覚が変わると違和感を感じます。音の価値観が変化する事により、違和感を感じると理解しておきましょう。

まとめ

補聴器を装用すると、聞こえるようになる事で、聞こえてくる音の範囲が広がり、今まで聞こえてきた音は、さらに大きく聞こえるようになります。そして、聞こえてくる音は、今までと異なって聞こえてくるようになります。

これが補聴器を装用した時の変化になります。補聴器を装用する場合は、これらの事が起こると理解しておけば、対応しやすくなります。

音に馴染むには

さて、上記には、補聴器を装用する事について記載してみました。では、どのようにして音に馴染めば良いのでしょうか。これだけ見てみるとすごく大変な感じがします。そのため、こちらでは、音に馴染むには、どのようにしたら良いか、予め理解しておきましょう。

馴染むために必要な考え

まず、今まで聞こえていた感覚は、一旦忘れてしまいましょう。人の感覚は、良くも悪くも変化できるものであり、対応する事ができます。オージオグラムを見るとわかる事は、明らかに人の感覚からズレているのは、自分自身の聞こえです。

もちろんあまりにも聞こえてくる感覚が異なってしまうと違和感が強すぎて使用できないかもしれません。もし補聴器を装用してみて違和感はあるけど使えそうであれば、まず使用してみてください。しかし、「とてもじゃないがこれは、無理だ……」と感じる事(違和感が強すぎる場合)があれば、違和感を少しでも軽減してもらい装用できるようにします。

馴染むために必要な考えとしては、できれば、今までの感覚を忘れ、まずは使用してみる事です。違和感が強い場合でも使用してみると案外馴染む事は、あります。感覚が変化するというのは、とても違和感が強いものです。

実行する事

馴染むために必要なのは、ひたすら使用する事です。できれば、毎日、一日中使用するのが最も好ましいです。違和感が強く合ったとしても一日中装用し続けて、1週間〜2週間くらいするといつのまにか、そのように聞こえるのが当たり前のように感じます。ここまでくると耳に馴染んだと言えるでしょう。ただ、注意として馴染むというのは、音が快適に聞こえるようになる事では、ありません。その点に関しては、こちらをご覧いただくとよく理解できるようになります。

リンク:多くの人が誤解している補聴器が慣れるという状態

もちろん使用し続けて頭が痛くなる、耳が痛くなる、気持ち悪くなる、このような症状が出るのなら、休む必要もあります。しかし、出ないのなら使用し続けても構いません。ただ、今までの感覚を変える際は、何らか苦痛を感じるものです。

私は、目も悪くメガネやコンタクトレンズを使用しています。メガネを初めて装用した時は、かなり違和感があり、正直頭が痛くなったり、気持ち悪くなりました。しかし、それでも使用し続けていると自然とメガネをかけてもメガネをかけている状態が普通になりますので、何も感じなくなります。

コンタクトレンズに変更した時も同様で、メガネからコンタクトレンズに変えた時、見える感覚が異なるため、また頭が痛くなり、気持ち悪くなりました。しかし、その状態でも使用し続けていると違和感を感じなくなります。今ではコンタクトレンズを主に使用しています。

このような例からも私は、人の感覚を変えるというのは、本来苦痛であると考えています。それは、私自身も苦痛を感じたからに他なりません。ただ言える事として、この感覚は、良くも悪くも馴染む事が可能である事です。人のすごいところは、ここにあります。初めは、苦痛を感じるかもしれませんが、使用し続けているうちに違和感を感じにくくなってきます。

使い続ける事が馴染むために必要な事です。近道は存在しません。ひたすら使い続ける事が重要です。

あとがき

補聴器を装用する際に起こる事として、記載してみました。このような内容を記載し、少しでも補聴器装用後の世界がわかるようになれば、装用を希望している人の力になれるかもしれない……という事で記載してみました。ただし、私自身、綺麗ごとを言って補聴器の装用を勧める気はありません。

補聴器を装用している人間から言えるのは、補聴器を装用するのは、楽ではない事です。聞こえてくる音の感覚は変わりますし、良くも悪くも今までより聞こえるようになります。補聴器を装用するという事は、今まである聞こえの感覚を否定し、聞こえる世界に行く事を意味します。

聞こえる世界とは、どんな世界でしょうか。聞こえる世界とは、聞こえる事で喜ぶ事もあれば、聞こえる事で苦痛に感じる事もある世界です。音が聞こえる事は、全てが良い方向に行くわけではありません。音が聞こえる世界では、騒音問題もありますし、音が聞こえる事でイライラしたり、「変な音が聞こえて眠れない……」という事も起こるかもしれません。聞こえるというのは、どんな時にも良いことばかりではありません。それは、一般の人が最もわかっている事です。

しかし、聞こえるようになって、人とお話ししたい、自分自身のやりたい事をしたい、そのように考える方には、補聴器をお勧めします。そして、補聴器を装用する時に起こる事を理解しておくことで、違和感を最小限に抑えられると考えています。

これらの内容で少しでも補聴器を装用した時に感じる事がイメージできれば幸いです。そして、耳の聞こえを改善させる手助けができたのならこのうえありません。

 

この内容をご覧になった方は、こちらの内容もお勧めです。

リンク:補聴器を選ぶ際に外すと困る音の出力

リンク:補聴器を選ぶ際に必要な語音明瞭度測定に関する基本知識

リンク:補聴器の装用タイミングは、困ったことがあった時

リンク:補聴器の性能の一つ、抑制機能を理解する三つの事

ABOUT ME
深井 順一
聞こえにくい人を支援するお店、パートナーズ補聴器、代表。生まれつきの難聴者で補聴器を使っている事、補聴器の販売を行っている事、この二つの視点で、ブログを書いたり、補聴器のご相談をしています。書いている人の詳細は、こちら。お店に関しては、こちらに詳細を書いています。お店の場所は、東京都墨田区、都営浅草線本所吾妻橋駅より徒歩2分のところに、あります。
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