バイクロス補聴器って、どんな補聴器?

深井 順一|パートナーズ補聴器

補聴器の中には、バイクロス補聴器と呼ばれる特殊な補聴器があります。これは、主に片方の耳が何らかの理由で補聴器が合わず、もう片方の耳は、補聴器で補えるようなケースに使われる補聴器です。

片方のみ補聴器が合い、もう片方の耳が合わない場合、実は、聞こえない耳側からの音が想像している以上に聞こえず、困ることがあります。ですので、そういった経緯から、このような補聴器が作られました。

だいぶ特殊な補聴器になりますので、こちらでは、このバイクロス補聴器に関して、どのような補聴器なのか。こちらに関して、まとめていきます。

バイクロス補聴器とは?

バイクロス補聴器とは、上記に記載したような主に片方の耳が何らかの理由で補聴器が合わず、もう片方の耳は、補聴器で補えるような方に使われる補聴器です。

バイクロス補聴器が合う主な聴力。

聞こえる耳側には、補聴器、聞こえない耳側には、クロスという音の転送機器を使うことで、聞こえる耳側で全ての音を聞く特殊な補聴器になります。

なぜ、こんな補聴器ができたのか。というところが非常に大事なのですが、その理由には、

  • 補聴器はどのような聴力でも改善できるものではない
  • 片方だけ聞きづらいだけでも色々な問題が起こる

の2つがあります。

補聴器はどのような聴力でも改善できるものではない

今現在、補聴器は、どのような聴力の方でもたちまち改善できるような魔法の道具ではありません。

実際には、補聴器をつけてもまるで聞こえの改善、言葉が聞きやすくなった感覚を全く感じない耳というのがあります。

それは、大きく分けて、

  • 聴力低下が大きすぎる耳
  • 語音明瞭度が低い耳
  • 耳の状況的に音の響きが強く残っている耳(特殊系)

の3つがあります。

聴力低下が大きすぎる耳

まず一つは、こちら。聴力低下が大きすぎる耳になります。

バイクロス補聴器が適合する典型的なケース。

主にこのような聴力のケースで、片方は、補聴器で補えるけれどももう片方は、全く聞こえず。このようなケースだと聞こえない耳側に補聴器をつけても聞こえるようになった感覚はほとんど感じません。

補聴器は聴力低下が大きければ大きいほど、聞こえの改善度は低くなるため、実は、このようなケースは、聞こえない耳側につけても聞きやすくなった感覚を感じない状態になります。

語音明瞭度が低い耳

2つ目は、こちら。語音明瞭度が低いために、全く補聴器の効果が出ない耳です。

語音明瞭度とは、音ではなく、言葉の聞き取りの指数になるのですが(語音明瞭度測定というのがあります)、こちらは、あ、き、し、などの一つの言葉がどれだけ理解できるのか、を調べる測定です。

こちらを行うと、音を大きくすることで、言葉が聞き取れるようになる耳なのか、それとも音を大きくしたとしても残念ながら言葉は聞き取りづらいままの耳なのかを調べることができます。

この数値が低い方は、実は補聴器をつけて聞こえを改善しても、あまり言葉が聞き取りやすくなる感覚はありません。音が聞こえることと言葉が聞き取れるようになることは違うことで、この理解度が低下すると補聴器ではどうにもできなくなってしまいます。

この明瞭度が低いケースには、突発性難聴、メニエール病など、元々は、聞こえていたけど、何らか病気によって、急に聞こえなくなり、聴力低下したケースに多いです。

そういった方は、補聴器をつけても効果を得づらくなります。

なお、注意が必要なのですが、明瞭度に関しては、50%以上の場合は、補聴器の方がまだよく、仮に50%以下(実際は、10%とか20%とか)の場合は、クロスで転送した方が聞こえの改善には貢献しやすくなります。

耳の状況的に音の響きが強く残っている耳(特殊系)

こちらは、いわゆる特殊系と言われるケースで、突発性難聴の方、あるいは、メニエール病の方の中には、その病気発症後、耳の感覚が特殊な状態になり、聞こえてくる音が常に響いた感覚になってしまったり、異質な感覚を感じるようになることがあります。

このようになると、補聴器で音を大きくすると、その感覚を増長させることになってしまい、そのようなケースも、補聴器では今現在、改善が難しくなるケースです。

もっとも、このようなケースは、総じて、明瞭度が低くなることが多く、そちらの方で引っ掛かることが多くあります。(元々の耳の響きが強く、言葉の理解がしづらい方が多いです)

このようなケースも補聴器では改善が難しいケースです。

なぜ、片耳のみつけるのでは改善されないのか

さて、もう少し話を進めていきましょう。バイクロス補聴器が合うような聞こえの方というのは、片方の耳は補聴器で補え、もう片方は、何らか補聴器では補ないような耳の方が対象です。

聴力で言うと、こんな感じの聴力ですね。

このような方からお話を聞くと、主にこのようなことを言われることがあります。

聞こえない側からの音、声に気が付かない。騒がしい中での聞き取りが難しい。複数の人との会話がしづらい(わからない人がいると話の内容についていけない)。音の方向感覚がわからない。が多いです。

多くのケースで言われるのは、「聞こえる耳側から話された場合は、まだわかることはあるが、聞こえない耳側からくる音は、全然わからない」というものです。

ですので、人によっては、まだ聞こえる耳を人に向け(体や頭、耳をクイッと相手に向け)、なんとか聞き取っている。という方が多いです。

なぜこのようなことが起こるのか。実は私たちは、頭があることで、音を受け取った側から反対の耳側に伝わるまでに音が大きく減衰するようになっています。(右から左、左から右に音が移行する際に音が大きく減衰します)

頭があることにより、音が減衰することを頭部陰影効果と呼びます。

ですので、片方の聞こえが良くても、もう片方の耳が聞こえにくいと、その方向からの音は、意外と聞こえないことが多いです。これは、片方の耳が健聴の方であっても同様です。

さらにその耳に関して、補聴器で補えればいいのですが、残念ながら補えない耳のケースもあります。ですので、聞こえない耳側にクロスという音の転送機を乗せ、そして、聞こえない耳側に来た音を聞こえる耳側に送るという突飛な発想で改善したのがこのバイクロスになります。

このように書くと、最近の技術のように感じますが、バイクロス、クロス自体は、20年以上前からあり、最近、Bluetoothなどの通信技術が発達したことから、よりバイクロス、クロス補聴器が盛んになってきました。

バイクロス補聴器というのは、補聴器では耳を補えない方のためにあること、そして、片方だけ聞こえにくいだけでも実は色々と困ること、この2つの理由によりできた特殊な補聴器になります。

バイクロスと補聴器、どう違う?

バイクロスと補聴器の違いは、両方とも聞こえさせるか、それとも片方だけ聞こえるようにするかの違いになります。

言い方を変えれば、聞こえの範囲ですね。それが異なります。

上記の説明の通り、人は片方だけつけた場合、意外と聞こえを改善していない側の音は聞こえない状態になります。ですので、気が付かない、呼ばれても無視してしまっているような状態になることがあるのですが、それを解消するか、そのままにするかの違いといえばわかりやすいかもしれません。

バイクロス補聴器の効果と注意点

バイクロス補聴器に関しては、全ての部分で改善ができるわけではありません。実際には、以下のようになります。

実は、音の方向感覚だけは、耳が両方とも聞こえていないと改善ができないため、バイクロス補聴器では改善ができません。

体験したことがない方にバイクロス補聴器の説明は難しいのですが、バイクロス補聴器は、片方の耳で全ての音を聞く特殊な補聴器です。ですので、音の方向感覚だけは、掴みづらい状況です。

ただ、使われている方の中には、音がした際に少し周囲を確認し、どこから来た音なのか、を確認されているケースもあります。もっとも、補聴器の音に慣れてくると、「あの人が話しているんだな」など、音の質でわかるようになる方もいます。

バイクロス補聴器で改善状態を良くするために

バイクロス補聴器において聞こえの改善を良くする場合、大事になってくるのは、補聴器をつける側の聞こえの改善度をなるべく良くすることです。

バイクロス補聴器は、まだ聞こえる耳側で全ての音を聞くため、こちら側の聞こえの改善度を良くできれば良くできるほど、聞こえない耳側の聞こえも良くなります。

ですので、もしバイクロス補聴器を使う場合は、なるべく良い状態にすること。ここが大事になります。

ただ、あまりにも大きくしすぎると、疲れたり、逆に辛くなったりすることがありますので、そこはお店の方ときちんと相談しましょう。基本的には、なるべく良い状態にできれば、それだけ聞こえの改善に貢献しやすくなります。

お客様の声

こちらでは、あくまでもこのお店でバイクロス補聴器を購入されたお客様の声に関して載せていきます。ご参考にどうぞ。

生まれつきの感音性難聴の方

30代、女性。生まれつきの感音性難聴の方(左右の聴力差あり)、バイクロス補聴器にて改善。

突発性難聴、原因不明の感音性難聴の方

40代、女性。右耳:原因不明の感音性難聴、左耳:突発性難聴の方。バイクロス補聴器にて改善。

原因不明の感音性難聴の方

60代、女性。両耳とも原因不明の感音性難聴(左右の聴力差あり)、バイクロス補聴器にて改善。

まとめ

こちらでは、バイクロス補聴器に関して、記載してみました。バイクロス補聴器は、主に補聴器では改善できない耳があること、そして、片方の耳が聞こえにくいままでも色々と不便な部分が出てしまうこと、この2つの理由により、出てきたものになります。

基本的には、まだ聞こえやすい耳側には補聴器をつけ、聞こえない耳側には、クロスという音の転送機器をつけます。そのようにすることで、聞こえない耳側に来た音を聞こえる耳側に転送します。

ですので、このような聞こえ方の人に起こりやすい音の方向感覚、これについては、改善することができません。このような聞こえの方の場合、大きい音がした時、ご自身だけ違う方向を向いたりすることがあるのですが、そういった方向感覚は、掴みづらいままになることが多いです。

が、それ以外は、状況や場所にもよるのですが、全体的に改善してくれるものになります。それがバイクロス補聴器ですね。

こちらに関して、少しでも理解が深まったのであれば幸いです。

記事URLをコピーしました