クロス補聴器って、どんな補聴器?

深井 順一|パートナーズ補聴器

補聴器の中には、特殊な補聴器があり、その中の一つがクロス補聴器と呼ばれるものです。

こちらは主に片方のみ難聴の方に使われる補聴器で、片耳が健聴、もう片耳が補聴器では聞こえを補えないような方に使われる補聴器です。

聞こえる耳側には補聴器をのせ、聞こえない耳側には、クロスという音の転送機器を使うことで聞こえを改善するのですが、聞こえる耳側で音を受け取ることから、だいぶ特殊な補聴器になります。

こちらでは、このクロス補聴器に関して、より詳細について載せていきます。

クロス補聴器とは?

上記の通り、クロス補聴器とは、主に片方のみ難聴の方。言い方を変えれば、片方は問題なく聞こえ、もう片方は、聴力低下していて、補聴器では聞こえをうまく補えない方に使われます。

聴力としては、主に以下のようなケースが代表例です。

少し詳細を記載させていただきますと、一般の人が聞こえている範囲は、0〜10dB、正常の範囲は、0〜25dBになります。まさに片方は、普通に聞こえていて、もう片方は、全く聞こえない、そんな聴力になります。

クロス補聴器の仕組みとしては、聞こえる耳側に補聴器をつけ、聞こえない耳側に音を転送するクロスと呼ばれる転送機器をつけます。

そのようにすることで、聞こえない耳側からくる音を聞こえる耳側に送ることで、聞こえを改善するのが、このクロス補聴器です。

基本的に補聴器というのは、聞こえなくなった耳側に音を入れ、直接その耳を改善するのですが、クロス補聴器は、聞こえる耳側に音を転送して改善するため、だいぶ特殊な機器になります。

なぜこんな補聴器がある?

もしかしたら、こちらをご覧の方の中には、「なんで、こんな機器があるんだろう?」そんな疑問を感じる方もいるかもしれません。

その理由は、今現在、補聴器は、どのような聴力でもたちまち改善できるわけではないからです。実は、聴力低下が大きすぎる耳や耳の状況が特殊な状態になると、その耳に補聴器をつけてもほとんど改善されなかったり、不快な感覚が増長されたりと効果が出ない耳があります。

その耳、そのものにつけても改善ができないため、であれば、聞こえる耳側に音を転送して聞こえを改善しよう。そのように考えて作られたのが、クロス補聴器になります。

言い方を変えればクロス補聴器は、その耳に補聴器をつけても改善ができないケースがあるために作られた補聴器になります。

なお、注意点を記載しますと、基本的にクロス補聴器は、一般的な補聴器では効果が出ない、得られない耳の方に使われる補聴器です。仮に一般的な補聴器で効果が出るのであれば、そちらの方が聞こえの改善効果は高くなる傾向があります。

また、最近出た補聴器のように思われますが、クロス補聴器、補聴器の世界では、クロスシステムと呼ばれますが、こちらは20〜30年前から存在しており、だいぶ前から、行われている改善方法になります。

クロス補聴器が合うケース

クロス補聴器が合うケースは、主に3つになります。

  • 聴力低下が大きすぎるケース
  • 語音明瞭度が低すぎるケース
  • 音の感覚が特殊なケース

聴力低下が大きすぎるケース

クロス補聴器が使われるケースで代表格なのは、この聴力低下が大きすぎるケースです。

このように片方は健聴で、もう片方は、全く聞こえない。このようなケースは、全く聞こえない耳側に補聴器をつけても、ほとんど改善ができません。

ですので、クロス補聴器で改善することが今現在では多い選択になります。

語音明瞭度が低すぎるケース

語音明瞭度とは、言葉の理解度のことで、音を大きく聞かせることにより、言葉が聞き取れるのか、それとも理解できるところまではいかないのか。ということです。

補聴器の世界には、語音明瞭度測定(ごおんめいりょうど測定)というものがあり、音を調べるほか、言葉の理解度、あ、き、しなどの一つの言葉を大きく聞かせた時に言葉が理解できるようになるのか、を調べる測定があります。

その内容ですが、仮に50%以下の場合は、補聴器で聞こえを改善しても、うまく言葉を理解できるようには、今現在、難しいとされています。実際、明瞭度が低い方は、補聴器で聞こえを改善しても、音は聞こえるけれども言葉が理解できるようになった感覚はないと表現されることが多いです。

音が聞こえることと言葉が理解できることは違う。こういったことが入るから耳は難しいのですが、この明瞭度が低いケースにおいては、補聴器をその耳につけても言葉が理解できるようになる感覚は薄いため、そのようなケースにもクロス補聴器は使われます。

なお、このような症状を発症するのは、メニエール病、突発性難聴、低音障害系の感音性難聴が多く、どのケースも元々聞こえにくい耳というよりも、初めは聞こえていたけれども、急に病気にかかり、そのような耳になってしまった方が多いです。

そういった方は、全てではないのですが、明瞭度が低くなるケースを多く感じています。

音の感覚が特殊なケース

こちらは、ご自身の耳で感じる音の感覚が特殊なケースになり、文章がおかしくて申し訳ないのですが、元々の耳で感じる音が非常に響きやすいケース、低く唸るような感覚がずっと耳に付き纏っているケースなど、耳の状況が特殊なケースになります。

補聴器でこのようなケースを補うと、そのままその感覚が増長されることが多く、多くの場合、不快感の方が強くなることが多いです。

そして、このようなケースは、同時に明瞭度が低いこともあり、このようなケースもまた、クロス補聴器で改善することがあります。

このようになる耳には、メニエール病、突発性難聴、低音障害系の感音性難聴があります。これらの病気、症状は、言葉が理解できなくなることの他、発症した耳から音を感じる際、だいぶ特殊な感覚、不快感が強くなることがあります。

なお、このような耳の方は、音の感覚が特殊になることのほか、明瞭度も低くなることが多く、どちらかというと明瞭度の低さで引っかかることが多くなります。(響きがあることで言葉がそもそも理解しづらい)

片耳難聴の聞きにくさ

このお店では、片方のみ難聴の方を何名か対応しているのですが、彼ら、彼女らの話をお伺いすると、聞こえにくさ、不便さというのは、主に以下のことが多く出てきます。

主には、聞こえない耳側から話された時にわからない、距離が離れていたり、会議などで聞きにくい側に人がいるときに聞きにくさが強くなる。ですので、人によっては、座る位置を聞こえる耳側に人が来るようにしたり(よく飲食店とかだとする)、そういった工夫をしながら、生活されていることが多いです。

聞こえる音の範囲で表現するとこのような状態ですね。まさに聞こえている耳側からは問題ないけれども聞こえない耳側から来た場合に聞きづらさを感じやすい状態になります。

また、もう一つは、音の方向感覚が得られないことですね。耳は、2つあることにより、音の方向感覚を得られるため、片方しか聴こえていない場合、音の方向感覚を得ることができません。

ですので、大きい音がした際、聞こえている耳側から音が来ているように錯覚してしまい、自分だけ違う方向を向く、なんてことも起こります。

あくまでも私自身が話を聞く限りですが、静かなところ、ご自宅の中とか、そういったところではほとんど困ることはないけれども、やはり仕事の際などで困ることが多いですね。

ですので、困る環境と困らない環境で、だいぶ差がある。あるいは、困る環境が多いのか、困らない環境が多いのかで、悩んでいるのか、全く気にしていないのかが分かれやすい傾向があります。

ここで、なぜ、片方のみ聞こえにくいことでも色々と聞こえにくさが起こるのか。そこについてお伝えしますと、耳は、2つあることで初めて一つの働きをするからです。

私たちは、実は、頭があることにより、音の方向感覚を得たり、さまざまな場所でも聞きやすくなるようになっています。

頭があることで、左から右、あるいは、右から左に音が移行する時に、音が減衰するようになります。減衰することで、騒がしいところでもなるべく聞きやすくしたり、音を理解できるようにしています。

が、これがなくなると、聞こえる耳側は良いのですが、聞こえない耳側からくる音は、聞こえる耳側に来るまでに音が弱くなります。ですので、それにより聞きにくくなる、ということです。

頭があることによって音が減衰する効果を頭部陰影効果(とうぶいんえい効果)と呼んだりしますが、そのおかげで、色々と聞きやすくなっているのが、片方のみ聞きにくくなると、逆に頭があることで、聞きづらくなってしまうわけですね。

片方のみ難聴の方の症状は、全て、耳は2つあることで一つの働きをしていることから来ています。ですので、片方のみ聞こえにくくなることでも、いろいろなことが起こるようになります。

クロス補聴器の効果

クロス補聴器の効果に関しては、以下の通りです。

この中で、騒がしい中での聞き取りも、今現在ないよりは改善しやすいものの、少々難しい傾向あり。

クロス補聴器は、聞こえる耳側に補聴器をつけ、聞こえない耳側にクロスという転送機器をつけます。そのことにより、聞こえにくい耳側にくる音を聞こえる耳側で聞くのがこの補聴器の特徴です。

そのことで、聞こえない耳側からの音、音声が聞きやすくなります。が、一つ注意点が必要なのは、音の方向感覚だけは掴めないことです。

たまにクロス補聴器を使われている方から、聞こえる耳側からくる音とクロス補聴器から来る音では違いがあるから、なんとなく音がくる方向がわかる。という方もいらっしゃいますが、どこまでそれが正確かはわかりませんので、カウントはしていません。

基本的には、聞こえない耳側からくる音を聞きやすくしてくれる。それがクロス補聴器の効果になります。

お客様の声

実際にこのお店をご利用になり、かつ、クロス補聴器を購入になった方からの声についてご紹介いたします。参考程度にどうぞ。

突発性難聴の方

50代、女性。片耳のみ難聴。突発性難聴により右耳が聞こえにくくなった方(重度難聴)、クロス補聴器で改善。
50代、女性。片耳のみ難聴。突発性難聴により右耳が聞こえにくくなった方(重度難聴)、クロス補聴器で改善。

生まれつきの感音性難聴の方

30代、女性。生まれつき片耳のみ感音性難聴の方、クロス補聴器にて改善。
30代、女性。生まれつき片耳のみ感音性難聴の方、クロス補聴器にて改善。

ムンプス難聴による感音性難聴の方

20代、男性。ムンプス難聴により片耳のみ失聴(重度難聴)の方、クロス補聴器にて改善。
20代、男性。ムンプス難聴により片耳のみ失聴(重度難聴)の方、クロス補聴器にて改善。

まとめ

こちらでは、クロス補聴器に関して、簡単にお伝えしてみました。クロス補聴器とは、聞こえる耳側に補聴器をつけ、聞こえない耳側には、クロスと呼ばれる音の転送機器をつけることで、聞こえを改善する機器です。

このような補聴器が出てきたのは、補聴器は、どのような聴力でもたちまち改善できるような魔法の道具ではないためです。実際には、その耳につけてもほとんど効果が出ないような耳もあります。

ですので、その耳、そのものを改善しても聞きやすくすることができないのであれば、聞こえる耳側に音を転送することで聞こえを改善しよう。そのような発想で出てきたのが、このクロス補聴器です。

なお、こう聞くとかなり新しい技術のように思われるかもしれませんが、クロス補聴器自体、20年、30年ぐらい歴史があります。最近は、Bluetoothなどの通信技術が発達したおかげで、クロス補聴器もどんどん良くなってきました。

片耳のみ難聴の方は、少々特殊なので、なかなかこういった補聴器に関して、世に知られることはないのですが、補聴器には、このような特殊な機器もあります。

と、クロス補聴器に関する理解が深まったのだれば、幸いです。

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