生き心地の良い町、この自殺率の低さには理由がある。を読んで
今年読んだ本の中で、一際面白かった本が、【生き心地の良い町、この自殺率の低さには、理由がある。著者、岡 檀(おか まゆみ)】でした。
この本は、自殺希少区域(自殺が非常に少ない区域)と呼ばれる徳島県旧海部町(今現在は、2006年に合併し、徳島県海陽町の一部になっています)に注目し、なぜ自殺者が少ないのか。その点を調べた本になります。
自殺というとあまりよい話題ではないのですが、日本では、他の国々と比べても自殺率が高く、さらにこの本の本筋は、どのようなコミュニティが自殺予防因子になりうるか。という点を調べていった本になります。
私自身が勝手にウォッチしている方がこの本に関して、感想を言っており、そこで興味を持ったため、私も読んでみました。その結果、この内容は、仕事にも、家庭にも、何かの集まりにも利用できる、極めて普遍的なコミュニティの作り方の基本になるように思いました。
そのことから、この本の紹介についてしていきます。
どんな本?
この本は、冒頭に記載した通り、自殺希少区域というなんだか聞きなれない言葉のものを調べたものになります。
上記の通り、日本は他の国に比べると自殺率が高く(特に若い人、若い人は、病気で死ぬことが高齢者に比べて少ないため、自殺が多くなりやすい)、自殺要因を調べるのではなく、自殺予防因子を調べるという変わった視点で物事を明らかにしていった本です。
この本の構成も面白く、初めの方にこの自殺希少区域である徳島県旧海部町(以下、面倒なので海部町と記載します)が出てくるのですが、どのような経緯でここに辿り着いたのか、そこで調べてみて、どんなことがわかったのか。海部町の人たちは、どのような人たちなのか。まるで小説を読んでいるかのような物語の進み方をします。
初めの20〜30ページは、本を読みなれていない方は、少し窮屈に感じますが、第2章の町で見つけた自殺予防因子のページからかなり面白くなってきます。
で、結論から記載させていただくと、この本は、日本におけるコミュニティのあり方。こうあると、人々が生きやすくなるというヒントが多く散りばめられた本に感じました。
人は人と協力して生きていくため、複数人が集まればそれはもうコミュニティです(人によってはチームといいますね)。どうコミュニティがあると人は生きやすくなるのか。そのヒントが多くあったため、私は、非常に勉強になりました。
核となる5つの自殺予防因子
この中で出てくる内容の核となるのは、5つの自殺予防因子に関するものです。結論から記載すると、それは、
- いろんな人がいて良い、いろんな人がいた方が良い
- 人物本位主義をつらぬく
- どうせ自分なんか、と考えない
- 病は市に出せ
- ゆるやかにつながる
の5つです。
その中で一際すごいものが、病は市に出せ。になります。
それ以外の要素が組み合わさって、この病は市に出せ。が効果を発揮するのですが、この概念は、私の中でもすごいなと思った内容でした。
病は、市に出せ(やまいは、いちにだせ)とは、簡単に言いますと、自分が今気になっていること、問題となっているもの、そういったものを周りの人に相談したり、公共の場所で言うことになります。
この本の中では、このようなエピソードがあります。
彼の説明によれば「病」とは、たんなる病気のみならず、家庭内のトラブルや事業の不振、生きていく上でのあらゆる問題を意味している。そして「市」というのはマーケット、公開の場を指す。体調がおかしいと思ったらとにかく早めに開示せよ、そうすれば、この薬が効くだの、あの医者がいいだのと、周囲がなにかしら対処法を教えてくれる。まずはそのような意味合いだという。
同時にこの言葉には、やせ我慢すること、虚勢を張ることへの戒めがこめられている。悩みやトラブルを隠して耐えるよりも、思いきってさらけ出せば、妙案を授けてくれる者がいるかもしれないし、援助の手が差し伸べられるかもしれない。だから、取り返しのつかない事態になる前に周囲に相談せよ、という教えなのである。
「病、市に出せと、昔から言うてな。やせ我慢はええことがひとつもない」。彼の母親の口癖でもあったという。「たとえば借財したかて、最初のうちはなんとかなるやろと思て、黙っとりますわな。しかし、どんどん膨れ上がってくる。誰かが気づいたときには法外なことになっていて、助けてやりとうてもどないもできん、ということになりかねん。本人もつらいし、周囲も迷惑する」。
「じゃあこの格言は、リスクマネジメントの発想なんですね」と私が言うと「ほのとおり」。彼は力強く同意した。
生き心地の良い町 著:岡 檀 P72
この内容は秀逸で、確かに一人で抱え込んでも問題は解決しないものも多くあります。そして、その結末は、本人も周りの人も苦しめる内容になることも少なくありません。
だからこそ、病は市に出せ。という格言がこの海部町にはありました。
ここが個人的にすごい学びになったのと同時に考えさせられるものでした。
病は市に出せ。をどう作る?
ただ一つ注意しなければならないのは、このようなことができる環境をどう作るかになります。
いくら「病は市に出せ」ということを知っていても、あるいは、周囲の人にそれを伝えても、そもそもそれが受け入れられる土俵がなければ、誰もいうことができません。
それができない理由は、そもそもそういった土俵がないからであり、それができる環境(コミュニティ)を長年に渡り作ってきたこの町そのものが優れていることがわかります。(というかこれを思いついた先代(先祖)が凄すぎる)
これを上記の5つの要因と照らし合わせると良くわかるのですが、そもそものコミュニティの中に「いろんな人がいて良い、いろいろな人がいた方が良い」という認識がコミュニティにあり、そのコミュニティをまとめる人が「人物本位主義で選ばれた人」である事。
さらに「自分なんかどうせ。」と考えずに有権者として意見を持ち、周りの人たちと緩やかにつながる。それができる土俵を長年つくってきたからこそできたものである。というのがポイントのように思います。
全ては、病は市に出せ。ということをしやすくするための内容といえばわかりやすいかも知れません。
この本の中には、このほか、助け合いに関する部分でも勉強になる部分が多く出てきます。
この本は、日本人という人種はどのようなコミュニティを作ったら生き心地の良いコミュニティになるのか。を解明した本とも言えるかも知れません。
人が複数集まれば、それはコミュニティであり、それの拡大版が、村や町、区、市になります。
このポイントを押さえるということは、コミュニティのポイントを押さえると言っても過言ではないと思います。
まとめ
さて、簡単にではあるのですが、生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由がある。について、記載してみました。
この本は、自殺に焦点を絞った本というよりも、生き心地の良いコミュニティとは何か。という点に焦点を絞り、記載している本になります。
研究対象としては、自殺に関することも出てくるのですが、私自身が読んで感じたのは、生き心地の良い町とは、どんなものなのか。そして、そこからコミュニティのあり方を学ばせてくれる内容でした。
上記には、メインの部分を記載しましたが、この他、さまざまな部分で参考になるものが出てきます。もし、興味がある方は、読んでみることをお勧めします。
私もこの本を参考にお店の形をもう少し、このような状態にしていけるように変えていきたいと思います。m(_ _)m