耳・補聴器のこと

日本の補聴器に関する満足度36%。クレーム件数を減らせば改善するのか?

深井 順一|パートナーズ補聴器

補聴器による聞こえの改善は、聞こえの改善と補聴器のFAQ、にまとめています。また、個々の症状(症例)ごとの改善は、お客様の聞こえの改善事例にまとめています。

12月4日、一週間以上前のことですが、補聴器販売店協会が主催した補聴器販売者技能工場研修に参加しました。その際の共通認識としては、業界そのものの信用もそうですが、難聴者のQOL及び、補聴器販売に対する満足度を上げましょう。というお話でした。

で、この研修に参加した際、感じたことですが、販売店協会が考えているクレーム件数を減らせば、満足度は、上がるのか。というところに関しては、若干上がるかもしれませんが、それだけで、欧州や米国のように跳ね上がるか。と言われれば「それは正直、考えにくい」と感じています。

私自身が感じたことに関して載せていきます。

2015年のクレーム内容に当てはまる割合は、0.1%

12月4日、発表されたクレームの件数ですが、参加した時におっしゃっていたのは、2014 年で527件、2015年で、560件。ということでした。

ここで、クレームの割合は、どのくらいなのか。それを調べるために、出荷台数をみてみます。

途中で切っているため分かりづらいが、2015年のトータル数は、5632,284台となる。

途中で切っているため分かりづらいが、2015年のトータル数は、5632,284台となる。

日本補聴器工業会より引用

これが補聴器販売の出荷台数です。2015年を見ていますと、562,284台になっています。次に、台数から人数に換算するため、両耳率で割っていきます。

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日本補聴器工業会ジャパントラック2015より引用

両耳率は、ジャパントラック2015より、引用。こちらによると46%なので、562,284÷1.46=385,126になります。※小数点以下は、切り捨てます。このようにすると、2015年に関しては、人数に関しては、概ね、このくらいの方々が購入したことになります。

次にクレーム件数と2015年に購入した人数で割ります。560÷385,284=0.00145・・・となり、クレーム内容に当てはまるのは、1%にも満たない0.1%であることがわかります。

中には「いやいや販売には、買い替え、新規があるでしょ?買い換える人は、満足しているから買い換えるのであって、その分は、除くべきだ」という声もあるかもしれません。

ということで、購入者の内訳が仮に新規3割、買い替え7割という構造だったとしましょう。すると385,284×0.3=115,585が新規で購入した分となります。この数値に、クレーム件数を割ると、560÷115,585=0.00484・・・となり、約0.5%です。このようにしてもわずか1%にも満たない状態です。

クレームの内容は、

  • 認知症気味の高齢者が補聴器を購入したが聞こえないので返品に行ったら、より高額なものを勧められた
  • 高齢者が補聴器の店に一人で出向いて勧められるまま両耳分を契約したが、高額なため片耳分への変更を申し出たものの注文品なのでキャンセル不可といわれた。
  • 同行者がいない間に補聴器を契約。使用すると頭痛がし、高額なため解約したい
  • 試聴した補聴器は聞こえたが購入したものは何度調整しても聞こえない
  • メガネ店で高額な補聴器を購入したが、その後病院で「補聴器は使用しない方がいい」と診断された
  • 補聴器の説明や調整などアフターケアを約束したのに自宅に来てくれない

ということでした。

つまり、この件数に関するクレーム、言い換えれば、ここを改善することによって良くなると考えられるのは、0.1%、もしくは、0.5%であることになります。もちろん、実際には、消費者センターに相談していないケースもありますから、それ以上になる可能性は、否定できません。

クレームを減らせば良くなるのか?

私が気になっているのは、果たして、この部分だけで満足度が36%という半分以下にまで下がるのだろうか?という点です。

その部分を改善させることで、満足度がいくらか良くなることは、あるかと思いますが、それが半分以上にまで改善したり、欧州、米国並みによくなるのか?を考えると疑問に思わざるを得ません。

各国の満足度関しては、以下の通りです。

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日本補聴器工業会 2012ジャパントラックより引用

日本とその他の国と比較すると日本は、補聴器に対する満足度が低い状態になります。

クレームを減らせば良くなるということであれば、逆説的に考えれば、これらのクレームにより、そこまで満足度が下がっていることになります。

年々クレームが増えつつあるのは、重々承知ですが、私はむしろ、それだけのクレーム件数で抑えられているとみています。ここを改善したとしても、個人的には、そう満足度は、あがらない。そのように感じます。

補聴器を使わない理由から考える満足度が低い原因

ジャパントラックでは、このようなものも出ています。

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日本補聴器工業会 2012ジャパントラックより引用

こちらは、補聴器を所有しているが、使っていない方々に関するものです。それを見てみますと、上位4つがダントツで、そのうちの3つは、聞こえに関する内容です。

つまり、補聴器に対する満足度が低い理由は、聞こえに関することが大半であることがわかります。そして、クレームの中で聞こえに関連する部分は、一つしか当てはまっていません(その内容も正直微妙ですが・・・)。

欧州、米国が高い理由を考える

海外でも同じように販売されているのに関わらず、なぜ日本だけがこれだけ低下しているのか。ということで、欧州、米国がなぜ評価が高いのか。こちらに関して自分なりに考えてみたのですが、結果、補聴器の効果が最大限発揮できるうちに装用させているからではないか?という結論に至りました。

そして、重要なのは、その状態で人々が使えるように能動的に人を動かす仕組みを作った。それが最大の要因ではないかと考えています。

まず、これらの国の特徴は、高福祉社会であり、日本より聴力低下が少なくても国から補聴器購入時の助成を受けることができます。私も詳しい数値までは、分からないのですが、軽度難聴くらいから受けられると聞いています。

で、重要なのは、ここからなのですが、補聴器の効果は、基本的に耳の状態が9割です。聴力低下も軽度〜中等度難聴くらいなら、補聴器を装用することで、それなりに聞こえの改善はできます。※語音明瞭度と呼ばれる音を理解する力もあることが前提です。

しかし、高度〜重度難聴の方や明瞭度が低くなった方は、残念ながら補聴器の効果は、薄くなります。特に明瞭度が低くなった場合は、どれだけいい補聴器をつけても、耳が音を理解できない状態ですので、もう誰もどうすることもできません。

つまり、聞こえの低下が軽度〜中等度くらいで、かつ明瞭度がある時期からつけられるようになると、聞こえの改善のキャパシティは、下げられにくく、補聴器によって改善が期待できる位置が高くなるということです。

それにプラスし、軽度から補聴器に関する支給制度があれば、購入に関するハードルは、下がります。

耳の状態によって聞こえの効果が変わるなら、その効果が期待できるうちに装用する。それをするために軽度のうちから支給する。この2つの組み合わせにより、高くなっているのではないか?と想像しています。

日本はどうか

日本はどうかと言いますと、補聴器を装用し始めるのは、70〜80歳ころからが多くなります。このくらいからですと、操作も難が出てくる方もいますし、聴力も下がり、かつ明瞭度も下がってくる方もいます。もちろん、年齢を重ねると重ねるほど、これらの要素は下がります。

聞こえに問題ないのであれば、いいのですが、聞こえにくいのに関わらず、このような状態を放置すれば、補聴器で目指せる効果のキャパシティは低くなり、装用しても、効果を感じにくく、あまり満足しない。というような構造になりやすいのではないかと感じます。

問題は、負のサイクルが出やすいことで、補聴器の評価が低いために、補聴器を敬遠→その内、自分の耳の機能も衰え、補聴器をいやいや装用し始める→でも、耳の機能が衰え、聞こえ改善のキャパシティが低下している→補聴器の効果に関して不満→さらに補聴器が敬遠される。

となりやすくなります。

補聴器を装用している自分の経験

ジャパントラックを改めてみていた時に感じたことですが、補聴器の評価がやたらと日本は低いことが気になります。私自身は、補聴器を装用していますので、なおさらそう感じます。

まず私の状態は、

現在の私の聴力

聴力がこんな感じで

今現在の補聴器の聞こえ。改善させるべきところは、きっちり改善させている。

補聴器を装用した状態の音の聞こえは、このようになります。

補聴器を装用した状態の語音明瞭度測定の結果。良い評価は出ているが、正直、少々、覚えてしまっているところもあるので、参考程度に。

補聴器装用時の明瞭度は、このような状態です。一応、裸耳の場合は、両耳とも90%くらいの理解力はあります。

気になったのは、ジャパントラックのこちら

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日本補聴器工業会 2012ジャパントラックより引用

日本版と

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日本補聴器工業会 2012ジャパントラックより引用

ドイツ版の比較です。

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日本補聴器工業会 2012ジャパントラックより引用

一緒にするとこのような状態になります。

本来の見方とは、異なるのですが、概ね、補聴器を装用している私の満足度は、ドイツの緑色のパーセンテージと同じくらいです。静かなところであれば、9割がた満足ですし、騒がしいところであれば、聞きにくくなることもありますので、6.5割くらいの満足です。

音質信号処理に関しては、どの項目も概ね、8割くらいの満足です。もっとも生まれつき難聴なので、健聴の人がどのように感じているのか。それが全くわからないからかもしれません。

で、ここで言いたいことは、上記のような聴力くらいで、かつ明瞭度が良い耳であれば、おおよそここまで満足度をあげられる可能性がある。ということになります。

明瞭度が低いケースや難聴の程度が大きい方は、誠に申し訳ないのですが、そうでない方であれば、そこまで改善できる。となると聞こえの効果を上げやすくなり、その結果、補聴器の満足度もまだまだ上げられるのではないか?と思っています。

満足度を上げる施策

個人的に思う満足度を上げる施策は、

  • 補聴器の早期装用
  • 早期装用を促せるインセンティブを作る

の2つです。補聴器の早期装用は、補聴器で効果が出る耳の状態で使えるようにすることに繋がります。そして、いくら早期装用が重要だと言っても人は、ほとんど動かないので、それを促せる仕組みを作る。それにより、満足度は上げられるのではないかと考えています。

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日本補聴器工業会 2012ジャパントラックより引用

補聴器に関する不満は、概ね、上記の通りです。一番上の煩わしいを除けば、全部、補聴器の聞こえ改善に関することですので、この部分をいかに改善させるか。それが、満足度を上げる点になると、私は、思っています。

まとめ

補聴器販売店協会では、初めに紹介したような内容でしたが、正直、それでは、満足度を上げられる気は、私はしません。あまりにも内訳のパーセンテージが低いからです。

補聴器は、耳の状態が9割であること、本当に感じている不満の種は、聞こえであること、この2つを見ると、補聴器の効果が望みやすい頃に補聴器装用し、できるだけ、聞こえにくくならないようにする。言い方を変えると、できるだけ聞こえを補いやすい時期に装用し、聞こえを補っていくことが重要なのではないかと思います。

私は補聴器の販売をしており、自分自身の聞こえに関しても同様ですが、軽度〜中等度難聴の方で、明瞭度があれば、満足度は、7〜8割くらいは、行きます。補聴器は、耳を治せる道具ではないため、周囲が騒がしすぎたり、状況によっては、聞きにくいことはあります。

しかし、補聴器があった方が聞きやすくはなりますので、それだけ満足度は、上げられるはず。と、様々なことを思いながら、今回の内容に関しては書いてみました。

皆さんは、どう思いますか?

ABOUT ME
深井 順一|パートナーズ補聴器
深井 順一|パートナーズ補聴器
補聴器を使っている人が対応している補聴器専門店・代表
生まれつきの感音性難聴で小学2年生の頃から補聴器を使用。補聴器の仕事は、2006年からで、2024年現在、18年です。自分自身でも補聴器を使っていることを活かして、お客様に貢献できるお店を目指しています。お客様からは、補聴器を使っている当事者なので、状況や気持ちをわかってもらいやすい、と評価いただくことが多いです。
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