老人性難聴の事例

【改善解説】50代の老人性難聴の方、補聴器で聞こえを改善

深井 順一|パートナーズ補聴器

補聴器による聞こえの改善は、聞こえの改善と補聴器のFAQ、にまとめています。また、個々の症状(症例)ごとの改善は、お客様の聞こえの改善事例にまとめています。

こちらでは、実際のお客様のデータを使って、どのように聞こえを改善していったのか。その解説を行っていきます。

今回のケースは、50代の女性の方で、老人性難聴により、聞きにくさが出てきた方となります。

こちらの方は、50代半ばから徐々に聞きにくさを感じるようになってしまい、主に職場での聞き取りに難が出てきた事から、ご相談いただく事になりました。

その事から、お店の方で対応させていただくのですが、結果

  • 職場での会話がしやすくなった
  • 今まで聞きにくかったアラーム系も聞きやすくなった、わかるようになった
  • 周囲の方とのお話がだいぶわかりやすくなった

とのことでした。

では、どのように改善を行なっていったのでしょうか。こちらでは、この方の状況から、どのように改善していったのか。改善したポイントは、どこにあったのか。その点に関して、まとめていきます。

お客様の状況

まず、お客様の状況ですが、

  • お名前:Y・Sさん
  • 性別:女性
  • 年齢:50代
  • 聴力:軽・中等度の難聴
  • 病状:老人性難聴と診断
  • 備考:徐々に聞きにくく感じ、治療は不可

となります。

聴力は、このような状況です。低い音は、まだ聞こえやすく、音が高くなるとなるほど、聞こえにくさを感じるようになります。

基本的に0~25dBの範囲内は、正常の範囲になります。一部、正常の範囲に当てはまるものの、音が高くなると、なるほど低下し、その部分は聞こえにくさを感じやすい状況ですね。

今現在の状況ですが、2〜3年ぐらい前から、少しずつ聞きにくさが出てきてしまい、職場の人とのお話のしづらさが徐々に強くなってしまったようでした。

特に声が小さい方や話がはっきり聞きにくい方がおり、そういった方とのお話は、苦手意識も出てきてしまい、それがストレスになったり、悩みのタネになってきてしまったようです。

仕事は、オペレーションの受け答え(電話)を行なっており、高い音が聞こえにくくなってきているせいか、こちらもしづらくなってしまい、人とのお話と仕事内容。2つの問題が襲ってきてしまったために精神的にもきつくなってきてしまった。という状況でした。

難聴になると、聞こえにくい事で周囲の方とお話がしづらくなったり、話しづらくなる事で、苦手意識が出てきたり、それが強いストレスになる事があります。

ということで、この状況について、改善していきます。

補聴器による聞こえの改善ポイント

という事で、早速、この状況の聞こえを改善していくための内容について、まとめていきます。

  1. 聞こえの状態と補聴器で補う事の問題点
  2. 改善する基本的な考えと補聴器の形状
  3. 聞こえを補う量(聞こえの改善数値)

改善していく際に大事になってくるのは、この3点になります。

①聞こえの状態と補聴器で補う事の問題点

Y・Sさんの場合、聴力的に気をつけなければならないのは、補聴器を装用する事による不快感の発生のしやすさと、ハウリングという現象が起こりやすい事です。

このような聞こえの方は、補聴器を装用した時に自分の声が大きく聞こえたり、閉塞感を強く感じがちです。

そして、それを軽減する方法もあるのですが、それは、耳を塞がないようにしたり、

ベントと呼ばれる穴を補聴器に空ける事によって、物理的に軽減していきます。

ただ、この軽減に関しては、やり過ぎてしまうと、ハウリングという現象が起こりやすくなっていまします。

このハウリングというのは、補聴器が出した音を補聴器が拾い、ピーッ!と鬱陶しい音が常時してしまう事です。このような状況になると、まともに補聴器は、使えなくなってしまいます。

さらにハウリングがしてしまうと、聞こえの改善に必要な量の音を出せなくなりますので、聞こえの改善もしづらくなる。という問題も起こります。

このような聞こえの方の場合は、こういった補聴器の問題が出やすく、改善が少々、難しくなりがちです。

改善していく際のポイントは、補聴器を使った時の閉塞感、自分の声の大きさに関しては、使える範囲内に留めておき、しっかりハウリングを止められるように改善していく事です。

そうすることにより、補聴器の使いやすさ、聞こえの改善。ここの部分を押さえる事ができます。

②改善する基本的な考えと補聴器の形状

では、どのようにしていければ良いのか。ということになるのですが、仮にY・Sさんのように、低い音が聞こえていて、高い音が聞こえにくくなっている方の場合、補聴器をつけた時に不快感を感じやすくなりますので、その感覚を軽減しやすい補聴器を使えると良いです。

その補聴器とは、

  • 耳かけ形補聴器の場合は、RIC(リック)補聴器
  • 耳あな形補聴器の場合は、CIC補聴器

この2つになります。

まず、注意しなければならないのは、上記に記載させていただいた通り、聴力的に補聴器を使った時に自分の声が大きく低く聞こえたり、閉塞感を強く感じやすい事です。

125〜500Hzの部分が60dBよりも軽いと、閉塞感や自分の声が大きく感じやすい傾向が出てきます。

この感覚は、125H〜500Hzが、60dBよりも軽いと感じやすく、この部分の聞こえが良ければ、良いほど、閉塞感や自分の声の不快な感覚を感じやすくなります。

その事から、このような不快感を感じにくい補聴器を使っていただくと、聞こえの改善に繋げやすくなります。

その補聴器が

  • 耳かけ形補聴器の場合は、RIC(リック)補聴器
  • 耳あな形補聴器の場合は、CIC補聴器

この2つになります。

この中から、補聴器の形に関して選べると、不快感を軽減しつつ、聞こえの改善に繋げやすくなります。

そして、その不快な感覚を軽減しやすくなれば、ハウリングのリスクを減らすことにつながり、聞こえの改善、補聴器の使いやすさに貢献しやすくなります。

③どこまで聞こえを改善できると良いのか

最後は、こちら。どこまで聞こえを改善できると良いか。になります。

補聴器で、聞こえを改善していく場合、どの補聴器を選ぶか。以上に、どのくらい聞こえを改善させるか。により、聞こえの改善効果が決まることが多いです。

補聴器の世界には、補聴器を装用した状態で、どのぐらい聞こえが改善されているのかを調べる測定があります。これを音場閾値測定(おんじょういきち測定)と呼びます。

おおよそ、補えると良い数値は、こちらの通りです。250〜1000Hzあたりは、聞こえも良いので、補聴器をつけることで下がらないようにし、それよりも高い音に関しては、補って、聞きにくさを改善していきます。なお、このくらいの聞こえの方ですと、35dBではなく、30dBくらいまで改善できる方も多々います。(1000Hz〜3000Hzが)

それを使った時の改善の目安は、このようになります。Y・Sさんの場合は、全体的に30〜35dBぐらいまで改善できると良いです。

少し補足していきますと、まず、低い音の部分に関しては、聞こえている状態になりますので、ここは、補聴器がない状態と同じ聞こえ(数字)になるようにしていきます。

言い方を変えれば、良いところは、そのまま良い状態で使っていく。という事です。

さらに、音声の部分が影響しやすいのは、500〜2000Hzです。

数値にして、30〜35dB。この辺りまで改善できると、普通の声の大きさの方からちょっと声の小さい方。さらには、少し離れたところから呼ばれた声もだいぶわかりやすくする事ができます。

ですので、ここの部分は、できれば35dBまでは、改善したいところです。

最後に高い音の部分ですね。Y・Sさんの場合、その高い音の部分が大きく低下していますので、この部分を改善できれば、離れたところの音声もわかりやすくなり、かつ、音もわかりやすくなります。

2000Hz以降の数値が、35dB〜40dBぐらいまで改善できると、だいぶ呼ばれた時もわかりやすくなり、かつ、周囲の音、チャイム、体温計の音などにも気付きやすくなります。

Y・Sさんの場合は、このぐらいまで全体的に改善できると、改善効果を上げやすくなります。

今現在、補聴器で改善できる数値は、35dBから、30dBくらいです。そのため、正常の範囲には、少し及ばないものの、それなりに改善させることはできるようになってきています。

なお、こちらで記載した改善目標値は、聴力図でいうと、このくらいになります。正常の範囲には、少し及ばないのですが、それに近い位置まで改善させることにより、聞きにくさを改善しやすくなります。

ただ、だからといい、無理に改善させることは、オススメしません。

  • 補聴器が使用できる範囲の音の大きさ
  • 聞こえが改善できる音の大きさ

これらの部分を見ながら、上記の測定で、改善目標となる部分まで、良くしていくことが大事です。それができると、聞こえの改善は、だいぶしやすくなります。

実際のご対応

初回と試聴

初回時ですが、まず状況をお伺いしたり、耳の聞こえについて調べさせていただき、上記の説明を行いました。

試したのは、RICタイプの補聴器です。閉塞感や自分の声が大きくなる感覚を軽減しつつ、聞こえを改善していくためですね。

そして、実際に補聴器の試聴を行なっていきました。その際に使用したのは、耳にかけるタイプの補聴器です。

はじめに試聴してみて、測定したデータがこちら。聞こえの改善値は、非常によく、かつ、騒がしい感覚も感じない。補聴器は、使える範囲内の大きさ。との事。

実際に初めて試聴した際のデータがこちらになります。

数値に関しては、結構、改善度が大きいのですが、音が大きすぎたり、きつい感覚はなく、使い続けられる音量。との状況でした。

ということで、このまま実際に貸し出しを行い、どのような変化があるのか。それを見ていくことになります。

二週間ほど日常生活上で使っていただくと

  • オペレーションの受け答えはしやすくなった
  • 周囲の人(職場で)との会話はしやすくなった
  • 今まで聞きにくかったアラーム系の音が聞こえるようになり、良くなった

との事でした。

日常生活上で補聴器を使う体験は、初めての事で、少し不安もあったようですが、つける事により今まで聞こえていない事に気付いた事。何よりも、つける事で、周囲の人とだいぶ話は、しやすくなったようでした。

Y・Sさんの場合は、高い音が聞こえにく状態になりますので、少し離れると高い音に該当するアラーム系、あるいは、呼び出し系の音が聞こえません。

音が聞こえない。というのは、音がしているのに存在していない。という風に聞こえにくい人は感じます。ですので「音がしている事に気がつかない」になるのですが、それがだいぶわかりやすくなったようでした。

この点は本当に何よりですね。

ご自身の状況を改善できる事に嬉しさを覚えたようで、ここから、補聴器でより改善したり、ご自身に合う補聴器を選んでいきます。

補聴器の選定

という事で、ここから、補聴器を実際に選んでいく事になります。

補聴器の形状は、結論から言いますと、Y・Sさんの場合は、CIC補聴器になりました。

仕事の内容がそもそもオペレーターになり電話をする機会が多く、できれば、そういった際に使いやすい補聴器が良い。という事で、こちらの補聴器になります。

補聴器の形の全体像をお話しさせていただくと、まず、補聴器には、耳かけ形、そして、耳あな形がいくつかあります。

これらは、対象となる聴力が違うのですが、ただY・Sさんの場合は、良くも悪くも、使うだけなら、すべてのものが対象になります。

その中で、特に使いやすいのは、この2つです。理由は、上記の通り、聴力的に自分の声の不快感や閉塞感、そういったものが聴力的に感じやすいため、なるべくその感覚は、無くしていった方が使いやすくなるためです。

まず、耳かけ形補聴器の良いところは、このような聞こえの方の場合に感じやすい閉塞感や自分の声が大きく聞こえる感覚、それを軽減しやすい補聴器である事です。

その事から、補聴器に関して、初めて使う方にオススメの補聴器でもあります。

逆にこの補聴器の欠点は、耳の上にかけて使用する補聴器になりますので、マスクだとか、メガネ。そういったものの邪魔に少しなりやすいところです。

ただ、電話に関しては、音を拾う位置が上の方にありますので、受話器を上にずらして、行う事になります。

これが欠点ですね。

耳あな形補聴器に関しては、先ほどの耳かけ形補聴器の逆になります。良いところは、電話やマスク、メガネ。そういったものが、今まで通り、使える事です。

そして、欠点は、自分の声が少し大きく聞こえたり、閉塞感を感じやすい所です。

この閉塞感や自分の声が大きく聞こえる感覚は、不快感につながりやすくなります。

なければないに越したことはないのですが、耳あな形の場合、耳を塞ぐ量が多いため、このような感覚を感じやすくなります。

Y・Sさんの場合は、職場での仕事と普段の使いやすさ。それを考慮して、CIC補聴器で改善していく事になりました。

聞こえの改善と最終チェック

さて、最終的にどのようになったのか。その点に関して、

  • 最終的な聞こえの改善状況
  • 耳あな形補聴器の欠点の確認

の二つの部分を記載していきます。

最終的な聞こえの改善状況

CIC補聴器で改めて聞こえを改善していくのですが、補聴器の最終調整に関しては、上記のようになりました。

目標値を少し厳しめにした状態での比較。それでも、半分以上は、目標の部分より、改善。あくまでも一つの目安ですが、それに関しては、達成するようにして、聞きやすくしました。

このような聞こえの方の場合、平均、30dBくらいまで、改善することができたりするのですが、概ね、その部分まで、改善する事ができました。

初回の貸し出し時の状態もかなり良い数値だったのですが、その状態で、日常生活、職場で使っていただいたところ、そこまで音が大きく感じず、かつ会話や仕事の際、かなり聞きやすくなっていたようでした。

そのため、CIC補聴器でもなるべくその良い改善状況を維持できるよう、改善をしていきました。

耳あな形補聴器の欠点の確認

次は、耳あな形の欠点部分の確認です。上記に記載した通り、この補聴器の欠点には、閉塞感が強く出たり、自分の声の違和感。これが、人によっては、だいぶ強く出てしまう事です。

その事から、実際に補聴器を制作し、確認していくのですが、

  • 耳が痛む、きついということはない
  • 自分の声は、少し大きく感じるが使える範囲内
  • 噛む音は少々大きく感じるが、使っているうちに慣れてきた

とのことで、全て、使用できる範囲内に収める事ができました。

なお、Y・Sさんは、大丈夫でしたが、耳あな形補聴器には、再度、無償で制作できる期間が、制作から3ヶ月ほどあります。

仮に耳が痛くなってしまったりする場合は、補聴器屋さんに相談し、修正してもらえると良いです。

この部分は、実際に相談する際、覚えておいたほうが良い情報ですね。

お客様の改善と評価

  • 種類:CIC補聴器(小型の耳あな形補聴器)
  • 金額:540,000円(税込)
  • 備考:CIC補聴器、両耳装用にて改善

どのようなことでお悩みでしたか?

実際に補聴器をつけて見ていかがでしょうか?

このお店で購入(相談)した理由はなんでしょうか?

実際のアンケート

アンケートにご協力いただきまして、誠にありがとうございます。

まとめ

以上、Y・Sさんのケースを使って、聞こえの改善の解説を行ってみました。どちらかというと若年性の老人性難聴の場合における聞こえの改善の解説に近い状態ですね。

上記に記載させていただいた通り、ポイントはしっかり音を入れる事と両方の耳に装用する事。そして、ご自身にとって使いやすい補聴器の形を選ぶ事。この3つになります。

それらができれば、聞こえの改善に繋がりやすく、かつ、使いやすい補聴器を得る事により、よりご自身の生活を改善させる事に繋がります。

軽度の難聴。というと症状や聞こえにくさが軽度。というような印象を持ちますが、そのようなことはありません。聞こえにくい事は、人間関係に大きく影響しますので、その部分まで軽度であるとは限りません。

ですので、そういった部分も含めて、聞こえを改善する。あるいは、生活を改善させる。その点をポイントにまとめてみました。

もし、同じような聞こえの方でお悩みの方がいらっしゃいましたら、参考にしてみてください。少し専門的な内容が入りますが、もしかしたら何かしらヒントになるかもしれません。

ということで、最後まで、ご覧いただきまして、ありがとうございました。

ABOUT ME
深井 順一|パートナーズ補聴器
深井 順一|パートナーズ補聴器
使っている人が対応している補聴器専門店・代表
1986年、7月1日生まれ。生まれつきの難聴者で小学2年生の頃から補聴器を使っています。聞こえにくい側の状況やお気持ちは、同じ難聴者や当事者にしかわからないことがある事から、このお店では、実際に補聴器を使っている私自身がご相談を承っています。

お店のご紹介

初めまして、パートナーズ補聴器の深井と申します。

このお店は、生まれつき難聴で補聴器を使っている人が対応している補聴器専門店です。

聞こえにくい側の状況やお気持ちは、同じ難聴者や当事者にしかわからないことがある事から、実際に補聴器を使っている当事者がご相談を承っています。

お店の詳細は、以下のページへどうぞ。

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