【今までより聞きやすく】左:中等度難聴、右:高度難聴の改善事例
60代、男性。左右で聴力が異なり、左側は、老人性難聴により、低下。右側は、突発性難聴になり、低下した方になります。
補聴器に関しては、数年前に購入し、日々、使用されていたのですが、外出先での聞こえや人混みの中での聞こえなど、一部、強く聞こえにくさを感じることがあり、その状況を改善できないか。とご相談をいただきました。
当店でご相談した結果ですが、
- 以前の補聴器は、聞こえが5だとすると、8ほどに改善された
- 騒がしい中では、わからない時もあるが、わかる時も増えた
- 音については、左右、バランスよく聞こえるようになった
との事でした。
耳を治すというレベルまでの改善はできなかった点は申し訳ないのですが、補聴器でできる限りの改善をさせていただき、状況をよりよくさせていただきました。
では、どのようにして良くしていったのか。こちらについて記載していきます。
お客様の状況
まず、お客様の状況ですが
- お名前:S・S さん
- 性別:男性
- 年齢:60代
- 聴力:左側、軽、中等度難聴。右側、高度難聴
- 症状:左、老人性難聴。右、突発性難聴
- 備考:両耳使用、他店で補聴器は、購入。買い替え相談で来店
となります。
聴力は、このようになり
左側の方が聞こえやすく、右側は、大きく低下しており、左右で、聴力が異なる状態です。
耳の状況ですが、いくつか病気を経験しており、その中で、聴力が下がった直接の原因は、左耳は、老人性難聴(加齢による難聴)、右耳は、突発性難聴という状況でした。
右耳に関しては、耳鳴りもあり、発症時から常にしている状況との事でした。
補聴器を使用している時の聞こえに関しては、冒頭の通り、外出時の聞こえに特に困りやすく、騒がしい場所だったり、右側から話されると、非常に分かりづらい(S・Sさん曰く、ほとんど聞こえない)という状況との事でした。
初めは、別の補聴器屋さんで相談されていたようですが、改善があまりできなかった事、そして、補聴器の買い替え時期にきた事。これらを転機に当店へお越しになりました。
現状の改善案
さて、この現状を実際に改善していくことになるのですが、
- 補聴器の現状の把握
- そこから考える改善案
の2つについて記載していきます。
補聴器の現状の把握
まずは、改善の第一歩となる現状の把握から初めていきます。
左右の聴力が異なる場合、音声を理解する能力と言いますか、音を大きくした際に、言葉として認識できるのか。という部分が、左右で異なることがあります。
特に突発性難聴など、突然、聴力低下が起こる難聴(病気)は、この能力が下がりやすく、うまく補聴器では、効果が出ないことがあります。
それを行なった結果がこのようになります。聴力の良い左側はそれなりにあり、右側は、補聴器適用のギリギリのラインでした。
この数値の意味ですが、このようになります。補聴器は、音を大きくして耳に伝える機器ですので、この数値が伸びないと、補聴器を使用しても、この数値の通り、音声の理解のしづらさが出てしまう状況となります。
左側は、良いのですが、右側は、このまま装用するか、それとも別の方法で補うか。その点について考えていく必要があります。
さて、次は、お持ちの補聴器を使用した状態の聞こえについて調べていきます。左右とも聴力が異なるため、それぞれの状況を把握していきます。
補聴器には、どのくらい各音(周波数)が聞こえているのか、を調べられる音場閾値測定というものがあります。
その測定を行なった結果は上記の通りです。▲が左のみ装用。▲が右のみ装用した状態です。
△は、左側のみの補聴器なし、△は、右側のみ補聴器なしの状態になります。
この数値だけでは分かりにくいため、それぞれの状態がどの位置まで改善されるといいのか。その点をかいてみますと、左耳は、このような状態になり
右耳は、このような状態になります。左側は、一部足りない部分もありつつ、それなりに良いのですが、聞こえない側の右側が低く、こちら側が聞きにくい状態であることが分かりました。
お話をお伺いして見たときも、右側からは、かなり分かりづらい。ということを聞いていましたので、その結果がそのまま、数値に出てくる形になりました。
そこから考える改善案
ここからは、実際にお客様と相談することになるのですが、上記の部分で押さえておくべきところは
- 右側は、明瞭度が低く、補っても補聴器の効果がでにくいこと
- ただ、右側は、実際に補えている数値が低いこと
の2点です。
現状の状態を把握して言える改善ですが、右側に関して、補聴器で音を大きく入れることにより、聞こえを改善できるなら、そのほうが良いですし、できないなら、バイクロス。という補い方を行い、聞こえる左側で、全ての音を聞き、理解する。という改善方法があります。
バイクロスについて記載しますと、形としては、このような補聴器です。クロスと呼ばれるものを聞こえない側につけ、補聴器をまだ聞きやすい側に装用します。
すると、聞こえない耳側にきた音は、聞こえる耳側に自動的に転送され、聞こえる耳側は、補聴器の役目をすることで、どちらの方向からきた音も理解できるようになります。
こちらは、聞こえる耳側で全ての音を聞くことができるため、特に片耳が非常に悪化している、もしくは、補聴器で補うことができない耳だった場合は、その聞こえない側からの音や音声もわかるようになるという特徴があります。
両耳とも補聴器を装用して、改善できることは、上記の通りで、全体的に改善できるのが特徴です。
バイクロス補聴器の場合は、このようになります。大きな違いは、音の方向感覚で、片耳で全ての音を聞くため、バイクロス補聴器では、音の方向感覚がわからなくなります。
これらについてお伝えした上で、改善を行なっていくのですが、どちらにしても、両耳ともできるのであれば、活用したい。ということで、補聴器で聞こえを改善していくことになります。
その場合は、
- 改善目標の数値までできれば改善させること
- 左右のバランスを整えられるなら、整えること
の2つが左右とも聴力が異なる場合において、重要な要素になります。
そして、補聴器を使用した状態や耳の状況を確認しながら、改善していけるとよりよくしやすくなります。
実際の対応
こちらについては
- 初回の対応
- 補聴器の形状選定
- CIC補聴器による改善と最終調整
について、それぞれ載せていきます。
初回の対応
はじめにご来店いただいた際は、まず、耳の状況から、補聴器の状況まで一通り、確認させていただき、上記の改善案の通り、ご説明。
その後、実際に聞こえに関して改善していくことになります。
お持ちだったのは、このような耳の中に入れるタイプで、小さいCICというものでした。
しかし、耳あな形の補聴器は、耳の型を採取して作る必要があるため、初回からこちらで試すことはできません。
そのため、耳にかける補聴器で試聴してみて、実際にまず、どのくらい改善されるのか。というのを見ることになります。
初回ですが、元々の補聴器で大きく音を出していたせいか、このくらいまで改善させることはでき、音量に関しても大きすぎることはなく、ちょうど良い感覚のようでした。
補聴器を装用した状態での音声の理解度を調べるテスト(音場での語音明瞭度測定)では、このような結果でした。それなりに良い結果です。
幾日か貸出し、試聴を行なった結果
- 以前の補聴器は、聞こえが5だとすると、7には改善された
- 騒がしい中では、わからない時もあるが、わかる時も増えた
- 音については、左右、バランスよく聞こえるようになった
となり、右側から話されても分かりやすくなったり、今まで聞きにくくなりやすかった外出の際には、なくては、困る(不安を感じる)ほどで、今までより、だいぶ改善された。とのことでした。
ここから更に煮詰めていくことになります。
補聴器の形状選定
補聴器には、形状がいくつかあります。いくつかといっても、代表的なものが、耳にかける補聴器、耳の中に入れる補聴器の2つになるのですが、それぞれの違いは、
こちらの通りになります。
こちらが耳にかける補聴器で
こちらが耳の中に入れる補聴器です。
補聴器の形状は、基本的に聴力によって使用できるものが決まります。
S・Sさんの聴力的には、耳の中に入れる補聴器でも、耳にかける補聴器でも良いのですが、CICと呼ばれる小さい小型の補聴器だけは、聴力的に右側が厳しい状態になります。
ただ、ご本人様としては、今までと同じCICの補聴器が良いとのことで、こちらで一旦作ってみて、ちゃんと補えるのか。という部分を確認しながら、改善を行なっていくことになります。
なお、CIC補聴器は、耳の中に入るだけあり、目立たないというところよりも、耳かけ形補聴器で聞こえやすい、髪がマイクに擦れる音や風切り音といった地味に気になりやすい音がしないため、耳に合う場合は、非常にベストです。
邪魔な音が聞こえないということは、邪魔な音が聞こえて聞こえを阻害されることも少なくなることを意味します。
聞こえの効果という意味でも、優れているのがCICの特徴になります。
ただ、いくつか欠点もあります。
補える聴力に関しては、制限(音の出力が補聴器の中でも小さい)があり、かつ、耳を塞ぐと感じるこもった感覚、閉塞感を感じるようになります。
そのため、あくまでも補える方、使用してみて、閉塞感等が気にならない方が対象になります。
CIC補聴器による改善と最終調整
形状が決まったら、実際に更に改善していきます。
まず、CIC補聴器で聞こえを改善させていく際に理解しておく必要があるのは、
- 補った際にハウリングがしないかどうか
- 音の出力は足りているのか
- こもりや閉塞感は、使用できる範囲内か
の3点になります。
S・Sさんの場合は、左耳は、大丈夫なのですが、聴力低下が大きい右側が特に問題になりやすくなります。特にハウリングと音の出力の部分です。
初回の製作では、このように調整。少し細かくなるのですが、上記に出した耳あな形補聴器の欠点の耳を塞ぐとおこる閉塞感、自身の声が大きくなる感覚を減らすため、少し穴を開けていたのですが、そのせいか、右側は、少し補える音の所としては、少なくなりました。
補った際に気になるハウリングと音の出力ですが、心配していた左側は、ハウリングはなく、ただ、少し音の出力が気になる程度で、できればもう少し補いたい。という状況です。
それでも補えている数値は、悪くはないため、そのまま貸出することになります。
その結果ですが、今までの補聴器が5(10点満点中)、借りた耳かけ形の補聴器が7だとすると、CICにしてから、8にまで行き、徐々に良くなってきた感覚を感じるようです。
そこから更に改善させるため、右耳に関しては、補聴器そのものを作り直し、しっかり塞ぐことで補える量を増やしていく事になります。
最終的には、補聴器の作り直しを行い、聞こえの改善を優先して調整をしていった結果、このようになりました。出力の問題を改善し、よりよくした状態が、こちらです。
補聴器を使用した状態の音声のテストに関しては、このようになり、その状態もそれなりに良好でした。
右耳は、少し閉塞感を感じるようになったものの、使用できる範囲内で、聞こえやすさと快適性、その2つに関してお伺いしてみたところ、聞こえやすさを優先されたため、この状態になりました。
なお、右のみの状態でも補聴器使用時の言葉の測定を行なってみたのですが、元々の明瞭度が低いため、そこまで改善させることはできず、右側は、あくまでも補助的なもので、メインは、左側で聞く。というスタンスで行なっていくことになります。
このようにすることで、聞こえをよくでき、かつ、音の方向感覚などもわかりやすくなりますので、今現在の耳の状況を最大限、活かす状態にすることができました。
お客様の声
実際にこちらへご相談になってどうだったのか。その声に関しても記載していきます。
どのような事でお悩みでしたか?
実際に改善をご相談されていかがだったでしょうか?
このお店でご相談(購入)されたのは、なぜでしょうか?
実際のアンケート
聞きにくさを感じていたことにより、外出時に困ることが多かった。とのことでしたが、改善を行うことにより、少しずつ改善でき、こちらとしては、何よりです。
それでも、耳を治すというところまでは、できませんでしたが、聞こえを改善させることにより、外出も増え、行動も徐々に増えてきた様で、改善できてよかったなと感じました。
確かに耳は治せないかもしれませんが、状況をよりよくすることで、できることを増やすことは可能です。それができ、こちらとしては、何よりです。
改善のポイント
S・Sさんの状態に関してですが、改善のポイントは、
- 左右の耳の聞こえの改善値を測定しながら、改善したこと
- 左右の耳をバランスよく改善するようにしたこと
- 実際のものを使い、使用できる状況か確認しながら改善したこと
の3点になります。
左右の耳の聞こえの改善値を測定しながら、改善したこと
左右の聴力が異なる場合は、左側、右側と分けて、改善を考えていく必要があるため、それぞれの耳の状態を測定しながら、一歩一歩改善できると、現状をよくしやすくなります。
特に補聴器を使用している感覚のみで判断してしまうと、聞きにくい側の状況が判断しにくく、バランスよく改善するのは、かなり難しくなります。
測定しながら行えると、どのくらい補えているのかもわかりますし、どのようにしたら補えるのかもわかりやすくなります。改善のためには、地味ではありますが、調べながら現状を把握し、目標値まで、一歩一歩、改善していけるとベストです。
左右の耳をバランスよく改善するようにしたこと
左右の耳をバランスよく改善できると、音の方向感覚もわかりやすくなりますし、音の気づき、という点に関しては、非常によくなります。
残念ながらS・Sさんの場合は、右耳側は、音声の理解という部分については、そこまで大きく改善されませんでしたが、両耳装用した場合の聞こえは、非常によくなっており、この両耳装用による聞こえの効果もバランスよく改善させることによって、起こります。
聴力の差があまりにも大きい場合は、どうしても、バランスよくすることは難しくなりますが、できる範囲内であれば、なるべく行うことで、耳の状況をよりよくすることができます。
実際のものを使い、使用できる状態か確認しながら改善したこと
これは、なんのことかわかりづらいのですが、CIC補聴器など、特殊な補聴器、もしくは、ギリギリ補えるか。補えないか。というものにぶつかった時、どのようにしたら良いか。という部分になります。
例えば、S・Sさんの場合は、聴力低下が大きいのに関わらず、CIC補聴器にしました。
正直、私自身の予想では、補いきれないのでは?。という予測がかなり強かったのですが、ご希望もあり、できる限り、やってみることにしました。
結果は、意外にも補えることに気がつくのですが、そこから、使用していても問題ないか。使える範囲内なのか。というのを確認させていただき、現状の改善を行なっていきました。
どうしても瀬戸際のもの、ギリギリのものは、判断に悩みやすくなります。その場合は、一度、試してみる。ということをしてみると、状況は驚くほど、よくわかるようになります。
予測というのは、平たく言えば、仮説ですので、実際は、どうか。というのとは、少し異なります。仮にダメだったら、他の方法を考えれば良いだけですので、やってみた結果、どうだったのか。という部分を確認することは、とても大切です。
地味ではありますが、このような確認が、後々に大きな結果になることは、よくあることです。迷ったら、確認する。ということを覚えておけるといいでしょう。
まとめ
以上、S・Sさんの症例でした。左右の聴力が異なる場合は、耳の状況を把握することが何よりも大切になります。
補聴器も同様で、感覚だけで調整をしてしまうと、特に聞こえない耳側は、そのまま聞こえにくいままになることが多いです。
そのようなことがないように左右でどのように感じているのか。そして、バランスよく補うためには、どのようにしたら良いか。という部分を考えながら、音を入れることができると、上記のように改善ができるようになります。
確かに補聴器は、そこまでやっても耳を治す。ということはできない状態です。しかし、できる限り、改善させることで、できるようになることは、多くあります。
こちらの内容がお役にたてば幸いです。