お客さんに教えてもらった難聴者である私の長所
日々、仕事をしていると、様々な学ぶべき事がある。こちらに記載するのもまさに学んだ事になる。私自身、今まで自分の長所は、自分の体(耳)を実験台にでき、さらにその知見(経験)で、聞こえを改善できる事にあると考えていた。補聴器を装用している人は少ないし、さらにそのような方々が補聴器を調整している数も少ない。そして、補聴器は耳に合わせる機器ではあるが、実際には、自分の音の感覚を理解しながら、聞きやすいポイントと使えるポイントを探っていく機器だ。
中には音の受け入れが驚くほどスムースな方もいるが、そのような方は、10人に一人くらいだろう。大半は、何かしら気になるところが出てくる。
私の場合、今まで自分の耳を良くしようと、たくさん実験してきた。ほとんどが失敗に終わったし、何も考えずにやっていた時もあるので、散々な時期もあった。しかし、たくさん失敗したそのおかげで、耳の聞こえをよくさせる調整方針や補う方針を出せるようになった。そして、お客さんに関しても初めに失敗する事はあるが、そのおかげで耳を補う方針が出せ、その方針通りに進める事で改善させてきた。まさにトライ&エラーの繰り返しになる。
このように考えていたら、ある日お客さんから教えられた。「深井さんってお話しが通じやすいから良い」と
お客さんから教えてもらった長所
私は、初め言っている意味がわからなかった。
「話しが……ですか?それは、どういう意味でしょうか?」
「音の説明って難しいじゃないですか。なるべく伝わるようにお話しするのですが、以前の方だとなかなか伝わらなくて……」
「そうだったんですか……」
この方の場合、以前は、別の方々に見てもらっていた。病院の医師、そして聞こえる耳を持つ販売員のもとで調整をしてもらっていた。しかし、なかなか改善ができず、こちらにいらした方だ。
確かに音の説明は難しい、こう聞こえると言われても、実際にそれぞれ感じている感覚は異なる。感覚を表現するというのは思ったより難しい行為でもある。同じ音でも表現方法が異なるというのは、よくある事だ。
「でも、深井さんなら理解してくれますよね。気のせいでしょうか、ちょっと言うだけで、理解されている気がします」
「う〜ん、私の事を良く思い過ぎです(笑)。美化しすぎといいますか……。ただ、一般の方よりはわかりやすいかもしれませんね。私も補聴器をつけているので、補聴器から聞こえる感覚に関してはわかります。さすがに全ての事が理解できているわけではありませんが」
「そこがありがたいですね。伝えたほうが良いと思ってどんどん言うんですが、なんかめんどくさい客だなとか、クレーム言っている客みたいに見られそうで、なかなか言えなくなるんですよ。で、伝わらなくなると……」
「そうなんですか」
私は、この件ですごく考えさせられた。今まで自分自身が感じていた長所が違ったからだ。そして、今までの事を思い返してみると、少なからず、このような事を言われた事は一度だけではなく何度かあった。
話しを伺う限り、このような方々は、聞こえる販売員にお話ししても、なかなかこちらの事を理解してくれないという。「なんですかそれ?」や「はぁ……」、中には「補聴器は故障していないですね」と言われ「いやそういう事を言いたいのでは……」と感じた経験をお持ちのようだ。
ふむ、コミュニケーションとはなかなか難しいものだ。もちろん中には、単に対応した人が知らないだけという事も考えられるが、このような事を言う方は多い。お客さんからまたと教えてもらった。
使ってわかる事はたくさんある
私自身、ずっと補聴器を使っている事から、確かに補聴器の音の感覚はわかる。そのせいか、ニュアンス的なものは確かにわかりやすいし、こちらも伝えやすい。補聴器使用者が雑音が入るというものも少なからず、何かというところは、想像つくし、仮に周囲の音でない場合も予想がつく。使う事によってわかる事は色々ある。特に感覚がわかるというところが大きいのだと感じている。
確かに補聴器業界は、勝手な推測だが99%の人は補聴器を装用していない。健聴であるがために補聴器を必要としていないし、使う機会そのものがないという言い方が正しいだろう。だからか、使っている側の視点というのが、なかなか新しくうつるかもしれない。
例えば、耳あな形補聴器は、メガネや髪の音などが入らないので、快適に使いやすい。そして、暗騒音も耳かけ形補聴器より少ない傾向がある。そして、耳あな形は、装用する場所上、重なるものがないので、邪魔に感じる事もない。
暗騒音の部分は、クロス補聴器の試聴で、耳あなのクロスと耳かけのクロスで比較してもらった方から教わった。補聴器側の設定は両者全く変えず。形状を変えるだけで果たして変化があるか。というところが気になった私とお客さんで実験したものだ。耳そのものがある程度拾う音を絞っているため、結果的に暗騒音の部分も少なくなるのだろう。簡単にいえば、耳あな形補聴器の方が、余計な音がしづらい構造になっているという事だ。ただ、これは、耳の効果によるものとなる。
また、耳かけ形補聴器は、無指向性で全体の音を拾う傾向があるのに対し、耳あな形補聴器は、前方の音を拾う。耳の仕組みがそのようになっているからだ。そうすれば耳かけ形補聴器の方がうるさいし、音を拾いすぎる傾向がある事もわかるだろう。
どちらかというと補聴器の音を聞いてみて疑問に思ったものを文献や音響関係、耳の生理学の資料を読みあさって理解したものが多いが、使っているからこそ感じる疑問、感覚からわかる事はたくさんある。
補聴器業界では使っている人というのは、結構強い武器なのだと再度改めて認識させられた。