感音性難聴の事例

【改善解説】生まれつきの感音性難聴で、左右の聴力が異なる方、補聴器で改善

深井 順一|パートナーズ補聴器

聞こえの改善や補聴器のことについては、【FAQ】聞こえの改善と補聴器のFAQへ。お客様の改善事例は、聞こえの改善成功事例へどうぞ。

こちらでは、実際のお客様のデータを使って、どのように聞こえを改善していったのか。その解説を行なっていきます。

今回のケースは、30代、女性の方で、幼少の頃に難聴が発覚し、その頃から補聴器は使用されている方になります。

ただ、左右の聴力が異なり、元々、ご相談されている所では、うまく補聴器で聞こえの改善ができず、その事による聞きにくさを感じていました。

その事から、ご相談いただく事になるのですが、相談いただいた結果

  • 完全ではないものの、聞きにくさについては、大きく改善された
  • 音の方向感覚も以前に比べ、掴みやすくなった
  • 聞きやすくなることにより、聞きにくいことによる不安が少なくなった

との事でした。

では、どのように聞こえを改善していったのか。その点に関して、そのポイントとなる部分をまとめていきます。

お客様の状況

まず、状況ですが、

  • お名前:A・H さん
  • 年齢:40代
  • 性別:女性
  • 聴力:右、中等度難聴、左、高度難聴
  • 症状:生まれつきの感音性難聴
  • 備考:補聴器については、他店で購入済で、買い替えのご相談

となります。

聴力については、こちらの通りです。左右で聞こえが異なり、右側の方がまだ聞こえやすく、左側は、だいぶ聞きにくい状態になります。

聞こえの数値としては、このような状態ですね。一般的に聞こえている人の範囲が0〜10dB、正常の聞こえの範囲は、0〜25dBになります。そこからすると、特に左側が大きく下がっていることがわかります。

幼少の頃に難聴が発見され、当時から上記のように左右の聞こえは異なる状況のようでした。当時は、左側のみ装用していたようですが、徐々に右側の聴力もより低下してきたことから、数年前から、両耳に補聴器を装用して、聞こえを補っていました。

しかし、左側からは、聞こえている感覚は、あまりせず、左側から話されたり、騒がしい環境下になると、聞きにくくなってしまい、左側から話される事、そして呼ばれる事にかなり不便さを感じていました。

このような聞こえの場合、どうしても聞こえの良い方は、まだわかるのですが、聞こえにくい側はだいぶ苦手意識を感じてしまったり、聞きにくさを感じてしまう事で、会議などで座る位置を気にしたり、複数の人とお話しする時は、聞こえる耳側に人が来るようにして、対応したりと、気にする部分が多く出てきます。

そういった事による気苦労も多くなってきますし、聞こえる耳側も完全ではありませんので、聞こえにくい事による不便さは、どうしても感じやすい状況になってしまいます。

という事で、この状況を改善していきます。

聞こえの改善案

では、早速、この状況を改善していくのですが、まず、このような聞こえの場合に知っておきたい事に関して、

  • 聞こえを改善する際の注意点
  • 現状把握と、そこから考える改善策

に分けて、記載していきます。

聞こえを改善する際の注意点

まず、このような聞こえの方の場合、重要なポイントとして、聞こえにくい側の聴力。A・Hさんの場合は、左側ですが、こちらの方が聞こえにくさが強くなります。

左側から話されると、わからない。左側から呼ばれると気がつかないなどですね。

ですので、左右の聴力が異なる方の聞こえを改善する場合、要点となるのは、どのように聴力低下が大きい耳側を改善するか。で、聞こえの改善度が変化します。

そして、このような聞きにくい側の聴力低下が大きい場合、改善する方法として、大きく分けて

  • 両方の耳に補聴器を装用して、改善するパターン
  • 低下した耳側は補えないので、バイクロスで改善するパターン

の2つがあります。

両方の耳に補聴器を装用して、改善するパターン

こちらは、聴力低下が大きい耳側に補聴器を装用する事で、聞こえを改善できる場合において、行える改善方法です。

そのままの意味で、聞こえがまだ良い方も、聴力低下が大きい方も補聴器を装用し、聞こえを改善して、なるべく左右のバランスを取りながら、聞こえを改善していきます。

左右の聴力差が大きい場合は、どうしても感じる音の感覚は、異なってしまいますので、なるべくバランスを取れるようにする。という事しか伝えられないのですが、聞こえにくい側が改善されれば、改善されるほど、聞こえの改善効果は、高くなります。

低下した耳側は、補えないので、バイクロスで改善するパターン

耳の状況によっては、聴力低下が大きい耳側は、補聴器を装用しても、聞こえを補えないケースがあります。完全に聴力を失っている状態。音を大きく入れても、音声の理解に繋がらない耳。

中には、そのような耳の方もいます。

そういったケースにおいては、今現在は、バイクロス補聴器。というものが存在します。

これは、聞こえにくい耳側に音を入れても、聞こえを改善できないため、聞こえにくい耳側には、聞こえる耳側に音を転送するクロス。と呼ばれる機器を装用し、聞こえる耳側で、左右の音、全てを聞く変わった補聴器です。

耳の状況によっては、聞こえを補えない聴力の方もいますので、そのような方の場合は、このバイクロス補聴器で聞こえを改善する。という方法があります。

このような聞こえの方を改善していく際に大事なのは、「どちらの方が聞こえにくい側の聞こえを改善する事に繋がるのか」という事をしっかりと考える事となります。

現状の把握と、そこから考える改善案

という事で、まずは、現状把握です。今現在、お持ちの補聴器の状態。さらに耳の状況を確認していき、どのように改善していったら良いかを考えていきます。

聴力については、上記の通り、測定しましたので、次は、語音明瞭度測定という音を大きくすることで、音声の理解に繋がるのか。こちらについて、見ていくことになります。

その耳に補聴器を装用して、聞こえの改善が期待できるのか。それとも、全く反応しない耳なのか。を確認していくためです。

その測定結果が上記の状態になります。左右の聴力差があるケースでは、だいぶ珍しいのですが、左右とも音を大きく入れることにより、ある程度、理解がしやすい耳であることがわかりました。

この数値の部分ですが、一番良い数値(最良値)が50%以下になると、音を大きく入れたとしても、音声として、捉えにくく、補聴器の効果は、非常に限定的になってしまいます。

そのような場合は、他の方法で聞こえにくさの改善を考えていくこともあります。

しかし、A・H さんは、両耳とも適性がありますので、このまま、両耳に補聴器を装用して、聞きにくさを改善していった方が良いことがわかりました。

という事は、どこに聞こえにくい原因があるのか。それを知るために次は、補聴器を装用した状態での聞こえを調べていく事になります。

その結果は、こちらの通りでした。 ▲の部分が、両方の耳に装用して、調べた結果なのですが、右側のみを調べた時と両方の耳で調べた時がほぼ同じで、その事から、全体的に右側でほとんど聞こえている状態である事がわかります。

左側は、それよりも低い状態である。という事ですね。

右側の聴力の場合、どこまで改善できると良いか。という部分ですが、だいたいこの辺りになります。それに比べると、低い音は、聞こえの改善が強く、高い音の改善が低い。という事がわかります。

このようなケースでは、音は、聴こえるけれども、何をいっているのかがわかりづらい、はっきりしない、という感覚が強くなる傾向があります。

そして、左側は、このようになります。左側は、全体的に少し音が小さい。という状況ですね。

ただ、左側は、それなりに聴力低下も大きいので、実際にここまで補う事ができるのか。という部分もみながら、改善していく事が望ましいです。

A・H さんの評価では、左側は、あまり聞こえている気がしない。とおっしゃっていました。この数値を見る限り、まさにその状態を感覚でも感じている。という事がわかります。

そこから考える改善案

さて、状況を見た後は、改善案を練っていきます。

まず、現状に関しては、音を入れる事により音声の理解に繋がっている。という事ですので、単に聞こえにくさを補うための音量が足りないだけなのではないか。これが第一の仮説です。

そして、左右の聞こえが異なる場合は、なるべく両耳ともバランスよく補えるようになると、改善しやすくなります。このバランスよく、というのは、上記のように、左右の耳で、音の高さ別の聞こえがなるべく離れないようにすることです。

左右の聴力差が大きいと大きいほど、バランスを整えることは、難しくはなってしまうのですが、できる範囲内でも、そのようにした方が、右から聞こえる音、左から聞こえる音。そのようなものがバランス良くなり、使いやすくもなります。

また、左右とも先ほどのような目標のラインに到達するように改善していければ、今現在の状況をよりよくすることは、可能ではないかと感じます。

その際のポイントですが、音声は500Hz、750Hz、1000Hz、1500Hz、2000Hzあたりが影響しますので、この辺りは、35dBまで改善したいところです。

35dBまで改善できるようになると普通の声の方から少し声が小さ方。さらに離れたところから呼ばれた声など、様々の大きさの声が聞きやすくなります。

ですので、できればこのあたりは、両耳とも改善したいところですね。

高い音に関しては、だいたい35〜40dBになります。この部分まで改善できるようになると、アラーム系の音、離れたところからの呼びかけ、音。さらに音声の明瞭性。そういったところが上げやすくなったり、聞こえやすくする事ができます。

この部分は、無理やりその部分まで改善させることは、お勧めしませんが、もし、そこまで入れても大丈夫なのでしたら、この辺りまで入れられると聞こえの改善に貢献しやすくなります。

実際の改善

さて、早速改善していきます。こちらについては、

  • 初回時のご相談
  • 補聴器の形状選定
  • 補聴器の調整と最終調整

の3つに分けて記載していきます。

初回のご相談

初めのご相談ですが、各種、測定を行い、状況について、ご説明しました。そこから、今までと同じように、両耳に補聴器を装用して、聞きにくさを改善していくことになります。

今現在、補聴器の形にはいくつか種類があるのですが、今まで使用されていた耳かけ形補聴器であまり不備がない事、左側は、聴力が重いため、耳あな形が合いづらい事(ハウリングと出力不足の可能性)、その点を踏まえて、耳かけ形で考えていくことになります。

早速、改善のために新しい補聴器で、調整をしていくのですが、初めの状態は、このようになりました。右側、左側、それぞれ、目標の数値に近くなるように設定し、使える範囲内までで音を大きくしていきます。

ただ、左側に関しては、思うように数値が上がらず、右側に関しては、音量を入れても大丈夫そうでしたので、まずは、こちら側からしっかり改善していくことになります。

幾日か貸出し、様子を見て見ますと、

  • 以前の補聴器より、全体的に聞こえやすくなった
  • 左側から話されたり、そちらからの音もわかりやすくなった

とのことでした。

新しい補聴器を使ってみて、大きく変わったのは、右側の聞こえでした。聞こえの良い方の耳ですね。

こちら側は、以前よりもだいぶわかりやすくなり、聞きやすさは結構、上がってきているように感じたようです。それと同時に左側から話された内容も、以前と比較すると、だいぶ良くなってきたようでした。

騒がしい環境やあまりにも離れたところから話されたりすると、わからない事もあるようですが、聞こえの改善度は、明らかに新しいものの方が良くなっており、より改善していきたい。との事でした。

という事で、補聴器の形状選定と聞こえの改善をより煮詰めていく事になります。

補聴器の形状選定

結論から言いますと、補聴器の形状ですが、片側の聴力がある程度、重い状態である事から、パワータイプの耳かけ形補聴器になりました。

厳密には、耳あな形の補聴器も選択肢に入れようと思えば、入れられるのですが、

  • 音を大きくできる量が足りず、聞きにくさが改善できなくなる可能性
  • 音が強いことにより、ハウリングがしやすくなる可能性

の2つがあり、今まで、耳かけ形補聴器を使っていたものの、特に不備を感じていなかった事から、同じような耳かけ形補聴器にすることになります。

補聴器の調整と最終調整

さて、補聴器についてですが、A・Hさんと相談しつつ、上記の状態より、さらに煮詰めていくことになります。

前回の状態は、ここまで改善させたのですが、この状態でもまだ、もう少し音を大きくしても良さそうでしたので、目標改善値を上方修正していくと共に、できるなら、左側の高域の部分もよくしていきます。

ただ、実際には、音は、大きくするけれどもご自身で補聴器の音量を操作できるようにし、日常生活で使っている際に音が大きかったり、キツかったりしたら、下げてもらう。というように操作できる状況にして、行なっていきます。

最終的には、このような状態にまで改善させる事ができました。

実際には、耳せんの部分にあたるイヤモールドを変えさせていただき、補聴器の音の調整そのものも変えたりし、こちらまで、改善していきました。

そして、音の感覚は、聞こえは良いようですが、大きすぎることはなく、使用できる状態。との事でした。そして、ようやく音の方向感覚に関しても、改善されるようにもなってきました。

実は、左右の聴力が大きく変わると、音の方向感覚に関しては、つかむ事ができません。ですので、そういった部分に関しても掴めるようにするためにも、左右のバランスは整えられると良いです。

音量に関しては、たまに音を下げたり、あげたりすることはあるものの、その操作も、一時的なもので、設定した音量で使うことが多かった。とのことで、その状態に落ち着くことになります。

これで、補聴器の調整及び、改善は、一旦終了となります。

お客様の改善と声

  • 種類:標準BTE補聴器(標準サイズの耳かけ形補聴器)
  • 金額:480,000円(税込)
  • 備考:両耳に標準BTE補聴器をつけ、改善

どのような事でお悩みでしたか?

実際に改善をご相談されていかがだったでしょうか?

このお店でご相談(購入)されたのは、なぜでしょうか?

ご記入いただいたアンケート

アンケートにご協力いただきまして、ありがとうございます。

耳の状況としては、だいぶ複雑な状況で、他の補聴器屋さんでは、うまく改善できなかったこと。さらに、県外からお越しいただいた事もあり、私の方でできることは、すべてさせていただきました。

その結果、現状の改善に貢献できたのであれば本当に何よりです。

耳の状況が複雑でしたので、恐らく、今まで、聞こえにくい事で色々とご経験されてきた事をお察しいたします。

聞こえにくい事で、学校生活や職場、そのようなところで働きづらかったり、生活しづらかったり。

そして、何より、その事をなかなか相談できなかったり、あるいは、相談しても改善にあまり繋がらなかった。となってしまうと、この先、どうしたら良いか、よくわからなくなってしまったり、ちょっとした絶望感を感じじてしまった。という事を経験していてもおかしくない状況でした。

そういった状況から、私の方では、聞こえをできる限り改善する事。不自由な今の状況をなるべく改善し、より良く生活できるようになる事。こちらを目指し、聞こえの改善に関して、させていただきました。

A・Hさんも私に関して信じていただき、一つ一つ状況を調べ、さらにどう改善していくと良いか。その点についても相談させていただいた事から、改善できた事ですので、私一人の力ではございません。

A・Hさんのご協力があってこその改善だったと感じております。

私の方こそ、ご対応させていただき、本当に感謝しております。ありがとうございました。

まとめ

という事で、今回は、左右の聴力の差が割と大きい方のケースに関して、実際の実例を使って、解説してみました。

このようなケースで大事な事は、聞こえにくい側をどのようにしたら、最大限、改善できるのか。という視点です。

聞こえにくい側から話されたり、呼ばれたり、その方向からの音に気がつかない。わからない。お話が理解できない。という事が多くなってしまうためですね。

A・Hさんは、珍しく、補聴器を装用して改善が期待できる耳でしたので、両方の耳に補聴器を装用して、なるべく聞こえのバランスを整えながら、聞こえの改善を行なっていきました。

その結果、現状の改善に貢献でき、こちらとしては、本当に何よりです。

なお、一つだけ、注意点があります。A・Hさんのケースは、あくまでも左右の聴力が大きく異なり、両方とも補聴器を使って聞こえを改善できる耳だった場合の聞こえの改善となります。

中には、そうではないケース。どちらかというとそうじゃないケースの方が多いのですが、そういった方の場合は、バイクロス補聴器の方が聞こえの改善に貢献しやすくなります。

大事なのは、どの補聴器を買うか。ではなく、どうやったら自分の状況をより良くできるか。になります。あくまでも補聴器は、ご自身の状況を改善させるための手段であり、補聴器を買う事が目的ではありません。

もし、同じような聞こえの方でお悩みの方がいらっしゃいましたら、こちらの内容を参考にしていただければと思います。

最後まで、ご覧いただきまして、ありがとうございました。

ABOUT ME
深井 順一|パートナーズ補聴器
深井 順一|パートナーズ補聴器
補聴器を使っている人が対応している補聴器専門店・代表
補聴器のお店には珍しい難聴の補聴器販売員です。生まれつきの難聴者で7歳の頃から補聴器を使っています。補聴器の販売員としての知識、技術に加え、一人の難聴者が自分自身の聞こえを改善した知識、技術も組み合わせながら、聞こえの改善、補聴器のご相談をしています。
記事URLをコピーしました