両耳補聴の論文内容より左右差があるフィッティングを考える
聴覚医学会に勉強になる論文がありました。補聴器フィッティングの現状と将来の課題という内容です。
こちらは、現在の補聴器の現状に加え、そこからどのように将来、研究が進んでほしいかが記載された論文です。この中には、両耳補聴に関する内容がありました。
両耳補聴はどんな時に有効であり、どんな時に無効となるのか。これらが記載されています。
こちらが分かる事で、さらに適切な補聴器の提供ができるのではないかと思い、このブログにも載せてみようと思いました。
今回は、この論文を参考に両耳補聴の概要と左右差があるフィッティングを考えていきます。
両耳補聴の論文の概要
論文の中には、両耳に関する注意が記載されていました。
一般に健聴者は両耳で情報を受けており,音を立体感に感じている。両耳聴は正常者では通常の状態であり,その効果としては1)音源の方向が分かること(方向感があること),2)片耳に比べて両耳だとラウドネスが3dB 増加すること,が上げられることが多い。しかし,この両耳効果については,当然の前提として正常者で得られた結果であり,両耳の聴力が同等である場合に認められる効果であることが忘れられ,補聴器を両耳装用すれば当然に得られるように誤解または曲解される傾向がある。
補聴器フィッティングの現状と将来の課題より引用
そして、方向感に関しては次のように述べています。
方向感の認識では,音の大きさ(ラウドネス)の差と位相との差が判断の根拠となる。音が大きく聞こえる方向に音源があると感じ,音が早く到達した方向に音源があると感じる。もし,聴力に大きな左右差があると音源の位置にかかわらず良聴耳で音が大きく聞こえる。補聴器を使用している場合でも補聴閾値に左右差があると,音源の方向ではなく補聴耳の良聴耳側で大きく聞こえる。
補聴器フィッティングの現状と将来の課題より引用
では、どの音量レベルになると左右の方向感が得られなくなるのでしょうか。
立体音響の再生の分野で行われた研究によれば,一側耳を完全に遮蔽して難聴にすると,難聴耳側で3m の距離から発生した音は,良聴耳側で約10dB小さい大きさで聞こえる(小さく聞こえる程度は最大で15dB)。すなわち,補聴閾値の左右差が15dB以上あると,難聴耳側からの音は,良聴耳で難聴耳よりも大きく聞こえることになる。
補聴器フィッティングの現状と将来の課題より引用
この内容は非常に貴重な情報です。補聴閾値の左右差が15dB以上ある場合、適切な方向感が得られなくなる事を示しています。
なお、この先に出てきますが、1000Hzの周波数帯に15dB以上差がなければ、両耳装用は有効であると記載されています。ただし、会話に限定されます。
音量はどうなるのだろう?
両耳装用に関することとして、音がより聞こえやすくなる事が証明されています。
では、両耳の聞こえが均等でない場合は、どうなのでしょうか。こちらについても記述があります。
ラウドネスが 3dB増加することについては,物理的現象として,同じレベルの音を合わせるとデシベルの和の計算通り 3dBレベルが増加する事実がある。これと似た聴覚心理上の実験結果が認められ,両耳にレベルが同じ音を与えると聴覚系を伝わった中枢で 3dB大きく聞こえるという心理的現象がある。物理量について 10dB差がある二つの音を合わせた場合には,レベル増加は 0.4dBである。心理的現象としてラウドネスが 3dB増加することについては,難聴者の左右の聴力が等しいことが条件となり,補聴器装用下では補聴閾値が左右同等であることが求められる。もし,難聴者が補聴器を装用したときの閾値が左右で 15dB以上異なっていればレベル増加は認められないと考えられる(物理量の場合は 0.1dBの増加である)。
補聴器フィッティングの現状と将来の課題より引用
両耳効果については、両方の耳から同じように音を感じる事で起こっている……という事ですね。
両方の耳から音を感じるだけでなく、同じ音量で聞こえる事が重要なポイントです。
左右差のあるフィッティングを考える
上記の内容を踏まえて、左右差がある聞こえのフィッティングについて改めて考えてみます。
条件として、両耳とも難聴であり、片側がより重いケースに限ってお話を進めていきます。
両耳とも同じような難聴であれば、よほど変な事をしないかぎり、聴力差は、生まれませんので、左右で聴力が異なる方の聞こえのフィッティングに関して、考えていきます。
このケースに適合する補聴パターンは、補聴器を両耳に装用するか、バイクロスで補聴するかの二つになります。
上記の事を踏まえて考えてみると語音明瞭度の結果+補聴器装用後の音場閾値で判断できると、ベターな選択ができるように感じます。
バイクロスが合うケース
バイクロスが合うケースは、
- 語音明瞭度が片耳のみ低いケース
- 片耳が全く聞こえないケース
- 音場閾値の検査で、左右差が15dB以上差が出たケース
と、考えられます。
これらのケースでは、両耳効果が期待できません。一部のものは、そもそもの問題として、補聴器の効果が得られない状態ですので、なかなか改善が難しい状況です。
であれば、両耳装用するより、バイクロス補聴器を装用した方がお客さん、患者さんの満足度は高くなると考えられます。
※以下に疑問点を記載しています。
両耳装用が合うケース
両耳装用する事により、音場閾値の検査で、左右差が15dB以内にできるケースです。
左右の聴力に差があったとしても、左右差が15dB以内にでき、さらに装用していて、聞こえてくる音の違和感を感じなければ、最も良ベストな方法と考えられます。
この場合は、両耳効果も期待できますので、最もよい聞こえを提供できます。
なお、左右左があるケースは、できれば、左右の聞こえの差を15dB以内に抑えられると、より良くなることもわかり、改善方針として、考えることもできます。
わからないところ
問題は、音場閾値の検査で、左右差が15dB以上差が出てしまったケースでは、バイクロスの方が良いのか、両耳装用の方が良いのかがわかりません。
語音明瞭度が低い場合は、聞き取る力そのものが低いため、却って両耳装用すると良い聞こえを妨げる事もありますので、即決できます。
そして、聴力低下が大きいケースは、補聴器で改善できる部分もかなり限られるため、こちらも即決できます。
しかし、音場閾値の左右差が15dB以上差が出るケースは、両耳の方が聞こえる感覚があるため、両耳装用を選択しそうなイメージがあります。
これらは、両耳装用したケースとバイクロスで使ってみたケースで、実際に使用いただき、どのように異なるかを見極める必要がありそうです。
音場の結果やお客様に状況をお伺いしてみて、判断するのがよさそうですね。
あとがき
聴覚医学会に非常に勉強になる論文がありましたので、記載してみました。こうした情報を提供してくれるのは、非常にありがたい事です。
元々の論文の趣旨とは異なるものですが、有効な情報でしたので、載せてみました。
また、論文そのものも非常に勉強になります。補聴器に興味がある方なら読んでみて損はありません。
両耳補聴に関しては、上記の内容を知り、なるべく左右差をつけないようにして、しっかり改善できるようにしよう、と考えるのも良いですし、左右の聴力が異なる方へのフィッティングに活かすのも良いでしょう。
この内容をどのように活かすかは、みなさん次第です。