耳・補聴器のこと

びっくりするほどiPS細胞がわかる本から学ぶiPS細胞

深井 順一|パートナーズ補聴器

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今更感が強いですが、びっくりするほど、iPS細胞がわかる本という本を読んでみました。

びっくりするほど……かどうかは、人により差が出るところですが、個人的には、満足でした。

今までの医療と再生医療の違いやiPS細胞で治せる病気の正体がわかる本です。

今回は、こちらを読んで参考になった場所と感想を述べていきます。

治る病気と治らない病気の違い

多くの関心が集まるのは、この部分です。私もこの部分が知りたくて購入してみました。

簡単に言いますと細胞が原因で、起こる病気は治療可能(細胞の悪化、消失など)。臓器そのものの悪化により、起こる病気は、治療不能の様です。

ただし、前提として、その部分が先天性の障害がない事が条件です。

この本の中では、脊髄損傷を例にとっていました。

脊髄損傷の場合は、脊髄の中にある神経細胞が損傷する事により、起こります。それであれば、その神経細胞そのものを再生させてしまえば、治療する事が可能です。

臓器そのものの悪化のケースは、わかりませんが、そのものが無くなってしまう例は、体の一部が欠損してしまうケースがあげられます。この本では、指を例にしています。

複数の種類の違う細胞群から構成されている臓器、たとえば心臓や腎臓、肝臓などをつくることはかなり困難で、指や手、足などは複雑さをきわめます。指とは、いちばん小さな指でも、骨や腱、筋肉という運動系、それらを統一的に動かす神経、運動系に栄養を送る血管、そしてそれらを覆う皮膚、爪など、非常に多彩にわたる細胞と組織から繊細・巧妙につくりあげられています。簡単に「指」をつくる、「指」を再生させるといっても、これらのすべてをつくることにほかならないのです。指が再生医療でよみがえったという耳を疑うようなニュース報道がありますが、現実問題としてそれは、ネッシーや雪男と同じオカルト以外のなにものでもありません。

びっくりするほどiPS細胞がわかる本 P164~165

iPS細胞は、あくまでも細胞を再生させる技術であり、臓器や物そのものを再生させる技術ではないとの事。

臓器についても、このような記述があります。

まず、臓器のコピーをつくるには、臓器とはなにかを理解しなくてはなりません。細胞が集まって組織をつくり、組織が集合して臓器ができて、臓器が集合して体をつくります。たとえば、心臓という臓器を考えてみましょう。

心臓には、親近を統一的に動かす神経回路が必要ですし、単純に神経回路といっても交感神経と副交感神経の2つの経路と、心筋伝道路という心臓特有の神経回路も必要になります。さらに心筋そのものに栄養を送る血管も組み込まなくてはなりません。血管とひと言でいっても、血液と直接接する血管内皮、血管の可塑性や弾力を維持するコラーゲン繊維や平滑筋、そしてそれらを保護する外膜も必要です。つまり、心筋=心臓ではなく、心筋細胞のコピーに成功しても心臓をつくったことにはなりません。もっというと、心臓という臓器を構成するたった一つの細胞などは存在しないのです。

びっくりするほどiPS細胞がわかる本 P154~155

iPS細胞が、どのようなものかが良くわかる一文です。iPS細胞は、あくまでも細胞を再生する技術であり、臓器そのものを再生させる技術ではないという事ですね。

なお、耳は、臓器の様に様々な細胞から作られている感覚器官ですので、耳そのものを再生する事は、できないそうです。残念……。

原因となる部分が神経系のものは、iPS細胞で治る可能性があります。

難病の原因の多くは、単一細胞にすべての原因がある事が多く、iPS細胞によって治療できる難病は多い様です。

今後、技術が発達する事により、治せる難病も増えてくる様ですよ。

難聴の場合、有毛細胞の損傷により、聞きにくいと考えられています。有毛細胞の再生に成功すれば、聞き取れる様になる可能性は十分に考えられます。

先天性の病気

先天性の病気に関しては、治る、治らないの記載がありませんでした。

しかし、iPS細胞は、細胞をリプログラミング(初期化して、分化できる細胞にする事)して作ります。元となる細胞の遺伝子(DNA)から細胞は作られますので、先天性の病気の場合は、良くも悪くも元の状態に戻ります。元々持っている障害が軽度だったが現在は、重度になった。この場合は、軽度に戻りますが、障害そのものがなくなるとは、考えにくいです。

よって、先天性の病気は、治らないと考えられます。

新薬作りのヒントを得る

iPS細胞の使い方しだいで、難病の治療薬を作る事ができる様です。この部分は、多くのメディアが取り上げているところですね。

難病患者のiPS細胞を作る事により、難病患者の細胞を作り出します。作り出した難病患者の細胞と健康な方の細胞を比較する事で、病気の原因を探る事ができる様です。

この技術もすごいですね。iPS細胞を応用した方法です。

番外編〜再生させる医療と再生医療

個人的に、意外だったのは、この内容です。再生させる医療と再生医療、こちらは、現在の医療に対し再生医療がどのように異なるか、という点です。

現在の医療は、私達の体の中にある自己修復能力を前提に作られています。薬にしても手術にしても同様です。薬は、自己修復能力を高めるためのものですし、手術は、体内をかっ捌いても、死なない程度に、手術しています。体を再生させる機能がなければ、傷は塞がれないので、悪化してしまいます。

また、ガンの手術に関しては、このように記載されています。

がんの切除手術において臓器を切除する量や範囲は、人間のもつ自己修復能力(再生能力)の範囲内でのみ行われています。たとえば、がんを切り取るために肝臓のすべてを切り取ってしまえば生存できなくなるので、それは不可能です。ただ、肝臓は、3分の1が残っていれば自己再生が効く臓器ですから、その範囲を見極めてがんを切除します。しかし、3分の2以上を癌におかされてしまった肝臓がんの患者さんは手術不能となります。

びっくりするほどiPS細胞がわかる本 P16

こちらも自己再生能力ありきの手術です。再生する事を見越して、あるいはどこまで再生するかを見越したうえで、手術で治せるか、治せないかを見ています。この内容を読むとがんは、早期治療が大切という意味がしっかりわかりますね。

それに対し、再生医療とは、細胞の能力を使って治す医療である事と記載しています。

再生させる医療は、手術であったり、薬であったり、時には、人工○○といった臓器の一部になる機械を体内に埋め込むものを指しています。

再生医療の場合、悪くなった部分そのものを無のところから細胞を使用して、再生させる医療の事であると表現しています。

この部分ある意味当たり前の様に感じますね。しかし、よく考えてみれば、私達の体も傷が治っているのではなく体が再生しているという事に気が付きます。

治っているというのは、状況を表す言葉です。一方体内に起こっている変化は、再生しているという事です。よく考えてみれば、わかるのですが、今まで傷が再生しているとは考えた事がありませんでした。ここに気付けたのは良い点だと思います。

あとがき

iPS細胞について、再び勉強する意味でも読んでみました。自分の知識が間違っていた部分もありましたが、基本的には、合っていましたので、少しほっとしました。

本書の中には、キメラに関する内容も記載されており、この内容こそ、びっくりする内容でした。キメラとは、キメラ生命体の事であり、人間の遺伝子を組み込んだ混合生物の事です。臓器は、iPS細胞では作れないため、どう作るか検討した結果、猿や豚に人間の遺伝子を組込み、臓器工場を作る事を考えている様です。

日本では、既に解禁されており、作ったとしても違法にはなりません。倫理的観点も気になるところですが、このような研究が進んでいます。

臓器を作る事ができれば、ドナー不足も解消できます。耳についても耳そのものを作る事も可能になります。臓器を作る技術が確定できれば、移植手術もできる様になります。その結果、多くの患者さんを救う事ができる様になるでしょう。しかし、そこには、避けて通れない倫理がつきまといます。

個人的には、いくら猿や豚だからといって、そう簡単に自分のために殺して良いのかどうかの判断ができません。確かなのは、仮に自身の大切な人が、この技術で救われると知ったら、容赦なくやるでしょう。人は、善悪の判断より、その場の状況により、する事を決めます。追い込まれた人が犯罪に手を出すのは、このような心理からきています。

そこまでして生きたいのか、治療したいのか。そこもしっかり考えなければならない時代が来ようとしている様に感じます。

ますます進む医療。そこには、必ず倫理的問題も関わってきます。医療が進んで欲しいと願う反面、倫理も考えざるを得ません。

この本は、単にiPS細胞について学ぶだけでなく、このような一面も見せてくれた本です。非常に勉強になった一冊でした。

 

iPS細胞細胞に関するエントリーは、こちらにもあります。

リンク:iPS細胞で難聴を治すリスクを考えよう。

リンク:iPS細胞で難聴は治せるのか、難聴の原因から考える治療の問題

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深井 順一|パートナーズ補聴器
深井 順一|パートナーズ補聴器
補聴器を使っている人が対応している補聴器専門店・代表
補聴器のお店には珍しい難聴の補聴器販売員です。生まれつきの難聴者で7歳の頃から補聴器を使っています。お客様からは「補聴器を使って良かったです。これから明るく生活できます」「日常生活がスムーズになった」「人に聞き返すことが減り、コミュニケーションに対するストレスが軽くなった」と評価いただくことが多いです。
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