補聴器の基本・形状・調整

語音明瞭度で安易に補聴器の適性判断を行うべきではないのかもしれない

深井 順一|パートナーズ補聴器

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私の場合、測定できる方には、基本的に補聴器の効果を数値に落とし込んで、評価をしているのですが、最近、語音明瞭度の測定結果で、むやみやたらに補聴器の適性判断を行うべきではないのかもしれない……と思う事があります。それは、補聴器を装用する事で、耳(ヘッドフォン使用)の語音明瞭度の最良値を超える事があるためです。

語音明瞭度測定とは、どのくらい音声が理解できるかの数値化したものであり、補聴器の効果を見定める一種の測定となります。音が聞こえる事と、音が理解できる事は、異なり、中には、音を大きくしても聞き取りに貢献しない方もいます。このような傾向が出ると、残念ながら補聴器を装用しても効果が得られる事は少なくなります。

しかし、最近、補聴器の効果を測定したり、その方の耳の理解度を測定する内に、耳の測定をした数値の最良値より、補聴器を装用して得られる聞こえの最良値が上回る事が増えてきました。仮にそのような事が起こるのであれば、適切に判断できていると言えないのではないか、そして、仮にこの数値が低くても、諦める必要はないのではないか、そんな風にも考えるようになりました。

補聴器の常識

基本的には、語音明瞭度測定で測定した数値より、良くなる事はないとされています。明瞭度測定は、様々な音の大きさで行われ、耳の理解力がどのくらいあるかを見るものですが、その最良値が、補聴器装用時に目指せる限界値となり、補聴器でも、おおよそこの数値が出せるように調整をしていきます。

補聴器の常識からいえば、耳の語音明瞭度の最良値が補聴器を装用した状態の最良値より、良くなる事は基本的にないとされています。

それは、本当か?

私自身も、そのように考えていたのですが、日々、数値化して効果を見ていた際、初めに測定した結果と補聴器を装用して得られた結果を見比べると、補聴器を装用して得られた明瞭度の方が上回っているケースがいくつかありました。

基本的にそのような事はないと考えられていたため、私は「どうなっているんだ?」と疑問を持つようになりました。もっとも、これ以前にも、ちらほらそのような現象が見られ「そういえば……こんなケースもあったな……」と思い出しながら、なぜそのようになっているのかを考えるようになりました。一時期は、お店の機械の故障も疑ったほどです。

実際にあった例

では、実際にどのようなケースがあったかと言いますと、医師から「両耳とも明瞭度が半分くらいしかないので、補聴器を装用しても聞こえにくさが強く残るよ。無理に補聴器は使用しなくて良いよ」と言われたケースでは、こちらで、補聴器を試聴し、補聴器装用時の効果としては、70dBで90%、60dBで95%、50dBで70%、40dBで50%という結果でした。

dBのおおよその数値の意味については

おおよその音量表。こちらで音の大きさがわかる。

おおよその音量表。こちらで音の大きさがわかる。

となります。70dBは、大きめな会話となり、こちらで90%。60dBは、普通の会話音となり、こちらで95%。50dBは、離れた時の会話音(3mくらい)となり、こちらで70%。40dBは、小さな声となり、こちらで50%となります。

語音明瞭度測定には、聴力検査のようにヘッドホンを使うやり方と、スピーカーから音を出して、測定するやり方があります。医師から「両耳とも明瞭度が……」という部分に関しては、ヘッドホンを使ったやり方で、主に、その方の明瞭度を理解する際に使われる測定です。補聴器を装用した場合に行うやり方は、スピーカーから音を出した測定となり、補聴器を装用した状態でどのように理解できているのかを見る測定となります。

私の場合は、測定に関し、公平性を保つため、

  • 防音室の中で測定する事
  • 決まった位置から測定する事
  • スピーカーから検査音を出す事
  • ご自身が聞こえた通りにテスト用紙に書いていただく事

この四つを行っています。中には、販売員が自分から声を出したり、親切心で、お客さんが聞こえた通りに声に出してもらい、その内容を販売員が書いているケースがありますが、このようにすると、いくらでも偽造ができてしまいますので、公平性を保つためにこのようにして、行っています。

このようにして、行った結果が、上記の内容となります。

この他、私の方で、ヘッドフォンで測定した語音明瞭度測定の結果と補聴器を装用した状態の語音明瞭度測定の結果が異なったケースは、ヘッドフォンで測定した語音明瞭度測定の結果の最良値は、70%でしたが、補聴器を装用した状態の語音明瞭度測定の結果は、70dBは100%、60dBは90%、50dBは75%、40dBは65%という結果もありました。

こちらも、耳の最良値を突破した例になります。

数は少ないのですが、ちらほらこのような例が出てきました。

これらを想定したやり方

このようなケースがあるという事がわかった事で、私の中で感じているのは、無理に明瞭度が低いからといって諦める必要はないのではないか、という事です。あくまでも傾向でお話しさせていただきますと

  • 2000Hz以上が、60dB以上の聴力低下
  • 耳の明瞭度が、40〜60%の間くらい

であり、かつ

  • 聞こえてくる音に違和感がある
  • 明瞭度が5〜10%の方
  • 後迷路性難聴の方

でない方となります。まだ、調べている最中ですので、あくまでも傾向として捉えています。

こちらに当てはまらない方であれば、補聴器の効果を感じる、あるいは、補聴器で現状をより良くできる可能性が高くなるのではないかと考えています。明瞭度が低いからと勝手に諦めるのではなく、実際に試聴し、補聴器を装用した時の評価で見てみると、本当の意味での補聴器の効果が見えてきます。

まさにやってみてどうか、実際にやってみて、どのような結果が得られるのか。それで判断した方が、聞こえにくい人にとっても良いのではないかと思うようになりました。

今まで明瞭度が低ければ「効果はない」と言われてしまったり「音声は理解できないかもしれないけど、周囲の音が理解できたり、身の危険を感知できるようになるよ」と別の事を言ったりするケースは、ありましたが、そうではなく、実際にやってみて、どうか。そこで判断できれば、無理に諦めなくても良いですし、聞こえが改善できれば、それは、とても良い事です。

補聴器販売をする身から言わせていただければ一番最悪なケースは、聞こえを改善できない事です。お客さん側からすれば、聞こえにくいところが改善できず、今まで通り困った状態のままとなります。補聴器販売店としても、物が売れず、利益を得られません。これは、どちらにとっても良い事ではありません。

無理に諦めず、やってみて実際にどうかを確認する。数少ない例ではありますが、明瞭度より、より良くなるケースが出てきた事により、私は、そのように考えるようになりました。やってみてダメだったら、申し訳ないのですが、やってみて良ければ儲けものです。

日々、実験やお客様を対応してきて、私自身は、そのように感じています。

ABOUT ME
深井 順一|パートナーズ補聴器
深井 順一|パートナーズ補聴器
補聴器を使っている人が対応している補聴器専門店・代表
補聴器のお店には珍しい難聴の補聴器販売員です。生まれつきの難聴者で7歳の頃から補聴器を使っています。補聴器の販売員としての知識、技術に加え、一人の難聴者が自分自身の聞こえを改善した知識、技術も組み合わせながら、聞こえの改善、補聴器のご相談をしています。
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