40代、女性。10年以上前から、耳の聞こえにくさは感じており、6〜7年ほど前、補聴器を購入されたようですが、つけるとかえって聞きにくくなるような状態でした。
そのため、しばらく補聴器は、使用せずにきたようですが、今現状、仕事で困ることが増えてきたことにより、当店へご相談をいただきました。
当店で改善を行なった結果
- つけることで、逆に聞きにくくなることはなくなった
- 補聴器をつけることで、より聞こえが改善できた
とのことでした。
こちらのケースは、改善が難しい低い音が聞こえにくくなっているケースになります。こちらの方を改善させた方法を記載するとともに、補聴器の選定、調整に関することについて記載していきます。
お客様の状況
さて、お客様の状況ですが、
- お名前:Y・Hさん
- 年齢:40代
- 性別:女性
- 聴力:軽・中等度の低音障害
- 症状:低音障害型感音難聴、難聴の他、耳鳴りもあり
- 備考:他の販売店で購入したもののうまく行かず
となります。
聴力は、上記で紹介した通り、こちらになります。低い音が聞こえにくくなっており、高い音のいくつかは、正常の範囲です。
わかりにくい方用に記載しますと、このようになります。4000Hz以降は、正常の範囲内ですね。
このような聞こえの場合、主に低い男性の声や小さい声の方が聞きにくくなりやすく、補聴器で改善させるのが、今まで難しかったケースになります。
最近の補聴器は、低い声の方も徐々にではありますが、改善しやすくなってきており、完全に聞こえるところまでは、難しくても改善できる例も少しずつ増えてきています。
状況についてですが、冒頭で少し記載した通り、10年以上前から聞こえにくさを感じており、補聴器販売店で補聴器を購入。しかし、つけてもあまり変わらなかったり、かえって聞きにくくなってしまう部分もあり、使用されていない状況でした。
現状、困りやすい状況は、
- 低い男性の声が聞きにくい
- 周囲が騒がしくなると聞きにくい
- 小さい声の方がわかりにくい
とのこと。それらの部分を改善させていくため、色々と改善を行なっていくこととなります。
改善と問題点の把握
さて、改善していくにあたり
- 改善の基礎
- 低音障害を改善させる上での問題点
の二つに関して記載していきます。
改善の基礎
こちらに関しては、結論からいえば、明瞭度(音声の理解のしやすさの数値)が良好なため、両耳とも補聴器を装用し、なるべく聞きにくくならないようにしていくこととなりました。
耳の世界には、語音明瞭度測定という音声がどのくらい理解できるのか。それを調べるものがあります。補聴器は、音を大きくして聞こえを改善させる道具なため、事前にそもそも音を大きく聞こえさせることで、改善ができるのか。これを見るのですが、その結果が上記の図です。数値としては、いい状態ですね。
基本的に一番良い数値が50%以上であれば、補聴器の適性がありますので、両耳とも補聴器を装用し、なるべく聞きにくくならないようにしていきます。
低音障害を改善させていく上での問題点
知っている方には、周知の事実なのですが、難聴のレベルや傾向によっても改善のしやすさは変化します。そして、低音障害(低い音が聞こえにくい方の総称)は、残念ながら補聴器で聞こえを改善させにくい3大聴力の一つになります。※残りの二つは、高音急墜型(中音域以降から急激に聴力低下している耳)、谷型(中音域の聴力が大きく低下している耳)の聴力です。
その問題点は、
- 低音を入れて良いケースとそうでないケースがある
- 補聴器の特性上、人によっては、元の聴力より、高域が下がる
の二つです。低音障害の方を改善させる場合、以下の二つを理解しているかしていないかで、大きく聞こえの効果が変化します。
低音を入れて良いケースとそうでないケース
問題その1 。こちらは、そのままの意味なのですが、聞こえにくくなった低音を入れて改善できるケースと改善できないケースが存在します。
基本的に補聴器というのは、聞こえにくくなった周波数の部分を補い、聞こえを改善させていくのですが、低音障害の方の中には、低い音を入れると、かえって聞きにくくなったり、音が歪んでしまい、聞こえないケースが存在します。
場合によっては、補える部分はどこかを調べながら、まだ補いやすい部分だけ補い、改善させる事もあります。
補聴器の特性上、人によっては、元の聴力より、高域が下がる
問題点その2。これは、補聴器側の問題なのですが、基本的に耳は塞ぐと高域の部分が聞こえにくくなる傾向が出ます。具体的には、2000Hz、3000Hz、4000Hzあたりで、それ以上高い音は、補聴器を装用した状態で調べることをしていないため、わかりません。しかし、下がっている可能性は、否定できません。
低音障害の場合、高い音が聞こえるほど、補聴器の特性(実際には、補聴器というよりも耳を物で塞ぐと起こる特性)上、高い音が聞きにくくなるため、聞こえていると聞こえているほど、補う難易度が上がります。
そのため、基本的には、そのマイナス分を考慮し、補っても大丈夫なのであれば、その補修をする必要があります。
実際の改善プロセス
さて、ここからは実際に行なったことになります。残念ながら私自身、低音障害の方の経験が少ないため、いくつか実験、検証を行いながら、改善させていくこととなります。
こちらについては
- 現状の把握と初回時の対応
- 改善のために考えたこと
- 実際にやってみたこと
- 補聴器の選定
- 最終確認
について記載していきます。
現状の把握と初回時の対応
初回時は、基本的に現状の把握とそこから得られたことに関して説明していきました。
まず、6〜7年前の補聴器の状態ですが、補聴器で補っている数値を見てみますと以下のような状態でした。
こちらは、補聴器を装用した状態で各周波数を出しながら、どこまで聞こえているのかをみる測定での数値です。△が補聴器なし、▲が補聴器ありの状態になります。みてみますと、高い音、3000Hz、4000Hzの部分が補聴器を使った状態の方が低いことがわかります。
それ以外の部分の数値は、よく、そもそもこれ以上の改善が今現在の補聴器でできるのか。というところになってきました。
補聴器の状態に関して聞いてみますと、補聴器をつけると、大きい声の方などは、逆に聞きにくくなるようで、かつ補聴器をつけると変わらない部分などもあったりするようでした。
数値的には、改善しているものの、変わらない部分もある……ということで、そもそも現状をよりよくできるのか。という部分からスタートしていくことになります。
改善のための考え
補聴器で聞こえを補う上で考えたのは、
- 低域を減らしてでも高域を重視して改善した方が良いのか
- 高域が低下しても低域を中心的に補った方が良いのか
の二つです。
補聴器で聞こえを改善させていくにあたり、上記にも記載した通り、どうしても高域が下がってしまうため、耳を塞がないようにして、高域を入れるようにした方がいいのか、それとも耳を少し塞ぎ、低域をあげた方が良いのか。この二つに関して考えていくこととなります。
少し補足をしますと、高い音に関して入れる場合は、このような耳せんを使用します。すると、耳が塞がれないため、高域を落としにくく、かつ、高域を補いやすくなります。現在の補聴器では、耳を塞いで音を補う方式だとよくても20dBくらいまでしか改善が難しいためです。
しかし、穴が空いたものだと低域を補うことができない(低域は、いくら音を入れても穴の部分から抜ける)ため、低域の部分は捨てることになります。
一方、塞ぐタイプは、右の図に写っているタイプになります。こちらは、低域を補うことはできるのですが、逆にお持ちの補聴器のように高域が下がります。下がるというよりも塞ぐことにより、低下し、かつ、元の聴力まで補うことが難しいというのが正しい状況でしょうか。
実際にやってみたこと
迷ったらやってみる。まずは、どのようなことになるのか、実際に
- 低域は補えないけど、高域の低下を抑えられるもの
- 低域は補えるけれども高域が減るもの
で、それぞれ試聴してみました。初めにやったのは、低域は補えないけど、高域の低下を抑えられるものです。その理由は、6〜7年前の状態が、低域は補えるけれども、高域が減るもので補っていたためです。
数値の結果は、こんな感じでした。思ったより、高域は、伸びず、お持ちの補聴器よりはよくなりました。が、低域の部分の500Hz、250Hzあたりは入らない状態でした。
この耳せんは、だいたい700Hzあたりから、低い音は入らなくなるため、想像の範囲内です。
その状態で幾日か使っていただくと、以前の補聴器であった大きい声の方の声が聞きにくくなるというのは、なくなったとのこと。しかし、補聴器をつけている状態と補聴器なしの状態は、ほとんど変わらないとのことでした。
ということで、次は、こちらの耳せんを使って、低域を補いつつ、高域は、なるべく下がらないようにしてみました。
結果は、こちら。低域が上がるようになり、かつ、中音域の部分も上がるようになりました。懸念していた高域に関しては、上記の耳せんの時と比較し、そこまで大きな変化はありませんでした。
その状態で使っていただくと、上記の耳せんの頃よりよく、かつ補聴器なしの状態より聞きやすくなったとの評価でした。
ちなみに貸出前にそれぞれの状態で音声の理解度のテストをしたのですが、それがこちら。
補聴器を装用した状態の音の聞こえに関しては、上がっており、それぞれどこが改善できているのかはわかるのですが、音声にするとあまり変化はない状態になります。むしろ一部は、補聴器なしより下がっていますね。
しかし、耳を塞ぐ方針の方がまだ聞こえがよくなることがわかり、さらに改善させていくこととなります。
補聴器の形状選定
この聴力型に関しては、今現在、無難な選択肢としては、RIC補聴器になります。
こんな形をしているものですね。
まず、補聴器の形状で、選択肢としては、
このようになります。Y・Hさんの聴力からすると全部選べる状態です。しかし、実際には、耳あな型補聴器は、こもりや響きの部分が出やすいため、あまりお勧めできません。
そうすると耳かけ型になるのですが、高域を補いやすいのは、どちらかというとRIC補聴器の方ですので、そちらの方に決めました。耳を塞ぐと、そのぶん、軽減されやすいのであれば、その軽減分をなるべく補えるようにするためです。
幸いもともと使用しているのがその形状でしたので、そこまで気にされていないご様子でした。
最終確認
さて、さらに改善させていくこととなったわけですが、実際には、
のようなものを作り、より耳に適正化していきました。その結果

装用の状態は、このようになり、かつ音声の理解に関しては、

まで、改善することができました
そこまでくるとY・Hさんも明らかに聞きやすくなってきたとの評価で、良好になってきました。もちろん、全部が全部、聞こえるようになった訳ではありませんが、より聞きにくさを改善させることができました。
なお、実際には、聞こえすぎているのではないかと心配でしたが、そのままの状態で使用していたり、場合によっては、一つ、音量を下げたりして活用されており、使用は問題なくできる状態でした。
お客様の声
実際にご購入になったお客様の声についてアンケートをお取りしてみましたので、載せていきます。
どのようなことでお悩みでしたか?

実際に補聴器をつけてみていかがでしょうか?(このお店で相談されていかがでしょうか?)

このお店で購入(相談)した理由はなんでしょうか?

実際のアンケート

アンケートにご協力いただきまして、誠にありがとうございました。
改善のポイント
改善のポイントとなったのは、
- 音をちゃんと補えたこと
- 作ったことによる弊害を減らせたこと(あまり感じなかったこと)
- 補うことの響きがそこまで大きくなかったこと
の三つです。
音をちゃんと補えたこと
一番大きいのは、この部分。ちゃんと補聴器で改善に必要な数値まで改善させられたことになります。実際には、Cシェルと呼ばれる耳の形を採取して作る耳せんを作り、より改善させた状態にはなりますが、それを使い、低域をちゃんと補えるようにしました。
その部分が一番改善で大きいポイントですね。もちろん中には補えていない部分もありますが、補える部分は、しっかりと補ってあげると、状況は、よりよくなりやすくなります。
なお、上記には、記載しませんでしたが、高域(2000Hz、3000Hz、4000Hz)に関しても補えるだけ補っています。低下しやすい状況ですので、入れられると入れられるほど、音声の理解度は、上がりやすい傾向を感じます。ただし、あげすぎると、紙の音、レジ袋の音など気になってしまいますので、あくまでもあげられる範囲内に抑えておくのが、ベターですね。
作ったことによる弊害を減らせたこと(あまり感じなかったこと)
これは、何かと言いますと、耳せん(Cシェルと呼ばれる耳の型を採取して作る耳せん)のことです。

これですね。このような耳の型を採取して作る耳せん系は、音の伝わりがよくなるのか、聞こえ改善の数値は、よくなりやすいのですが、その変わり、
- 声がこもる、響く
- 自分の声が大きく感じる
- 噛む音(食事の際など)が大きく感じる
ということが起こりやすくなります。それらの部分も使える範囲内に抑えられたのも大きいですね。
人によっては、結構きつい部分もありますので、それらの部分が使える範囲内にまで抑えられれば聞こえ改善がよくなる部分だけ利用でき、さらに聞こえを改善できるようになります。
補うことの響きがそこまで大きくなかったこと
このような聴力の方の場合、
- 補っても強い響きがでないケース
- 補うと強い響きがでるケース
の二つがあります。補うと強い響きがでるケースは、その響きの強さを調べながら、耐えられる範囲内まで音を下げる必要が起こってしまうのですが、その点は、そこまで強くないことがわかりました。
そのため、実際に低音に関してしっかり補い、改善をさせていきました。この点もよりよくできた要素の一つです。
低音障害感音難聴の改善のまとめ
以上、低音障害の感音性難聴に関する改善でした。こちらの聴力は、だいたい病気になってそのような聴力になっている方が多く、その状況によって、耳の状況が大きく変化します。
そのため、補聴器をすぐに決めるのではなく、補聴器を装用し、状況をみながら、検証。あるいは、状況を把握し、改善していくことが必須な状態になります。
もともと改善が難しい聴力の一つですので、そもそも改善ができるのか。からスタートし、様子をみながら決める。ということができれば良いでしょう。
こちらの方の場合は、補うことにより、強い響きを感じるケースではありませんでしたので、ちゃんと音を入れて、改善をさせました。
と、以上、低音障害の感音性難聴の方の改善でした。
補聴器に関する内容

基本的な改善思考


補聴器の形状

補聴器の性能

補聴器の調整

補聴器の適正

補聴器の効果を上げる思考

補聴器で改善した事例
補聴器の使い方

補聴器に慣れる

耳が痛くなる場合は?

耳から外れる場合は?

大きい音が辛い

補聴器がハウリングする
