耳・補聴器のこと

iPS細胞で難聴を治すうえで考えられるリスク

深井 順一|パートナーズ補聴器

聞こえの改善や補聴器のことについては、【FAQ】聞こえの改善と補聴器のFAQへ。お客様の改善事例は、聞こえの改善成功事例へどうぞ。

iPS細胞で、難聴を治す事ができたら、非常に喜ばしい事です。聞きにくい今を変えてくれるのなら、難聴者にとって、渡りに船であり、最も求めているものになります。

しかし、個人的には、少し気掛かりなことがあります。耳が治るのは、良いのですが、果たして本当に全ての事が解決するのか……と言われれば、わからないからです。

さて、私は、どんなところが気掛かりになっているのでしょうか。今回は、わからない点とリスクになる点を記載していきます。なお、こちらの内容は、全て生まれつき難聴の方に当てはまります。元は、難聴ではなく、何かの原因で難聴になった場合は、iPS細胞のデメリットはありません。その理由については、本内容を見れば、自ずと理解できるようになります。

それでは、見ていきましょう。

難聴を治すリスク

初めに結論として、難聴を治すリスクには

  • 音が聞こえすぎる
  • 言葉が理解できるとは限らない
  • 聞こえる世界は、良い事だけではない

この三つがあります。補聴器を装用している以上に音が聞こえるようになりますので、音が補聴器以上にうるさく聞こえるようになる可能性があります。音を理解するメカニズムから、音が聞こえる事と、音が理解できる事は、異なります。それにより、別の意味で、理解しにくくなる可能性があります。また、聞こえる世界は、必ずしも良い事だけではありません。現実世界には、騒音問題もあります。これは、音が聞こえるからこそ起こる問題です。全ての事が良い事だらけではありません。

これらの理由により、個人的には、耳を治せば、全ての事が解決できるとは、考えていません。そして、これらは、難聴のレベルが重いと重い程、深刻になります。

さて、ここから、上記に上げた三つについて、どのような考えにより、このような思考に至ったのかを記載していきます。

音が聞こえすぎる

リスクとして考えられるのは、音が聞こえすぎる事です。これは

  • 補聴器を装用してもうるさい
  • 難聴者が感じる音
  • うるさい音の正体

この三つにより、思う事です。補聴器以上に聞こえるようになるという事は、それだけ聞こえるようにもなりますが、うるさく感じる可能性があるとも考えられます。

補聴器を装用してもうるさい

私自身、生まれつき難聴であり、補聴器を装用しています。その経験から感じる事は、補聴器を装用してもうるさく感じる事です。補聴器は、音を大きくする機器ですが、装用したとしても聞こえが正常な人より、聞こえていません。数値にするとかなり明確にわかります。

self-audiogramこちらは、オージオグラムと呼ばれる聞こえの表です。読み方が不明な方は、こちらをご覧下さい。

リンク:オージオグラムの見方と検査数値から見る耳の聞こえにくさ

一般的に、正常の聞こえは、0dBになります。そして、難聴ではないと診断されるのが20dBまでになります。〜20dBまでに、全ての聞こえの反応値があれば、難聴と診断される事はありません。

今、上記の表には、黒い▲が載っています。これは、私自身が補聴器を装用した時の聞こえになります。この数値は、補聴器が適合しているかを見ると適合していると見れる数値です。日本耳鼻咽喉科学会が決めた補聴器適合の指針には、補聴器を装用した状態で1000Hzが35dB以内であるか、聴力レベルの半分ほど、音が補えていればよいとされています。このオージオグラムの結果は、1000Hzどころか、全てが35dB以内であり、耳鼻咽喉科学会が提示した補聴器適合検査の指針をクリアしています。

基準をクリアした聞こえは、どうなのでしょうか。この基準によって、私自身は、聞こえるようになっています。しかし、この状態は、音を大きく感じる事もありますし、非常にうるさく感じる事もあります。では、一般の人の聞こえは、どうなのでしょうか。私自身、健聴の人の耳を調べた事がありますが、大抵0〜10dB以内になります。つまり、私よりも20dB以上小さい音が聞こえている状態です。

これらの事を考えてみると今感じている音の感覚より、非常に大きく音を感じる可能性が高いと個人的には、考えています。元々聞こえていて、難聴になった方は、元々の聞こえがわかるかもしれません。しかし、生まれつき難聴の方は、正常な人がどれほど聞こえているのかがわかりません。私もその中の一人であり、わからないからこそ、どう聞こえるのかの想像もできません。

音が大きく聞こえる理由は?

ここで、このような事を書くと「補充現象」を考えていないと書かれそうですね。私自身の耳は、感音性難聴ですので、少なからず補充現象はあります。補充現象に関しては、Wikipediaを引用します。

聴覚補充現象(ちょうかくほじゅうげんしょう、英名 Recruitment (hearing))は、感音性難聴に伴う聴覚過敏症の症状である。耳鼻科領域において単に補充現象あるいは聴覚のリクルートメント現象ともいう。

感音性難聴では、難聴であるにもかかわらず、ある一定の音量を超えた音が健常耳に比べ、より強く響き・また耳に刺激を感ずることがある。そのような感音性難聴に伴う聴覚過敏症の症状を聴覚補充現象と言う。
特に、子供が叫ぶ音、テレビの音、高音の機械音、高音の金属音、スクーターの排気音、車の走行音などが響いて聞こえ、苦痛である。

感音性難聴を伴わない聴覚過敏症とは必ずしも同一ではないが、表面的な事象としては大部分で重なる。

wikipedia 聴覚補充現象より引用

補充現象とは、簡単に言いますと通常、徐々に音量を大きくすると徐々に音が大きくなって聞こえるのですが、補充現象が強い方ですと徐々にではなくいきなり大きく感じるようになります。感音性難聴の方は、程度の差はあれど誰しもが持っている感覚です。

さて本編。伝音性難聴の方は、補充現象がないとされています。しかし、伝音性難聴の方でも補聴器の音をうるさいという事もありますので、あまり関係ないと私は、考えています。伝音性難聴の方が、うるさいといわないのであれば、補充現象であることわかるのですが、何名か対応した伝音性難聴の方の経験より、個人的には、そう考えています。

うるさい音の正体

さて「うるさい」とは、どのような時に使われるのでしょうか。私自身の考えとしては「その人の感覚次第」であると思っています。

補聴器屋にいた頃は、たまにものすごく聞こえる方に合う事がありました。先ほどのオージオグラムでいうと25dBで反応したり、20dBで反応する方がいます。私自身の30dBも結構聞こえている部類なのですが、それを通り越す方々がたまに現れます。そして、中には、私以上に聞こえが重いのに関わらず、平気でそのような値を出します。その方々にお話しを聞くと「別にうるさくはないですね」や「まぁ音が大きいと感じる事はありますが、こんなもんかな。と気にした事がない」という事でした。ここから考えられる事は「その人の感覚次第である」という事です。

生まれつき難聴の方は、補聴器で聞こえてくる感覚が耳の感覚になります。特に初めて補聴器を装用する時は、非常に重要で、この時に、出力を制限しすぎるとそのように感じるのが当たり前だと思い、それ以上音を聞こえるようにすると「うるさい」と感じやすくなります。しかし、子供の頃から、しっかり音量を入れている方は、そのしっかり入れている音量が基準になりますので、むしろそこまで出さないと音が弱く感じます。これは、私の耳の経験と今まで対応してきたお客さんの感覚により、そのように感じます。

うるさいというのは、生理的現象もあり、誰が聞いてもうるさい音は存在します。しかし、このような感覚的なうるさいも存在していると私は考えています。補聴器は良くも悪くも耳に合わせる機器ですので、このような事も起こりえます。

そして、それは、耳を治す際にも影響すると考えてます。補聴器の出力を制限して聞いている耳であれば、それ以上の音が聞こえる事により「うるさくてかなわない……」となる可能性は、十分に考えられます。

言葉が理解できるとは限らない

言葉は、どのように理解しているのでしょうか。ここがわかると耳の聞こえが良くなると言葉が理解できない可能性がある事に気が付きます。「耳の聞こえが良くなるのに、言葉がわからない?」と一見、矛盾した事を言っているように思いますが、あながち外れているとも思いません。と言いますのも感音性難聴を補聴器で補えない事で、それは証明されています。こちらでは、言葉を理解する仕組みから見ていきましょう。

言葉を理解する仕組み

言葉を理解する仕組みについては、下記のリンク先の「聞こえの仕組み」の項目を見るとわかりやすくなります。

リンク:感音性難聴の概要と代表的な6つの難聴の改善方法

人は、脳の中に音を記録しています。そしてその記憶と聞こえてきた音を結びつけて理解しています。個人的に思う懸念は、難聴の耳で覚えた音は、耳が治った際、そのまま結びつけられるのか……という懸念です。耳の聞こえが良くなれば、当然聞こえ方も異なるはずです。補聴器を変えると補聴器から聞こえてくる音が変わる事で、言葉が聞きにくくなる方がいるように、これと同じ現象が、耳を治す事によって起こるのではないかと考えています。

補聴器を変えると言葉が理解しにくくなる現象も脳の中にある記憶と結びつけて音を理解しているのであれば、納得が行きます。脳の中に記憶してあるデータと聞こえてくる感覚が異なれば、データを照合する事ができません。それであれば、音は聞こえるけれども言葉が聞き取れないというのは、ありえる話です。これは、耳の聞こえが治った場合も起こりえるのではないかと考えています。

音を覚え直すリスク

このようになるともしかしたら音や言葉を覚え直す必要があるかもしれません。その労力は、どのくらいかかるのかは想像つきません。

この部分は、あるかもしれませんが、ないかもしれないところです。ただし、難聴の程度が重くなると重くなるほど、治療後の聴力は変わりますので、覚え直すリスク、あるいは、治したら全く別の聞こえになってしまい、全くわからない……となる可能性も高くなると考えられます。

聞こえる世界にはいる意味

聞こえの世界に入るという事は、必ずしも良い事ばかりではありません。聞こえるようになって良くなる部分もあれば、聞こえるがために悩む事もあります。全ての事には、利点もあれば、欠点もあります。

聞こえる世界

聞こえる世界は、どのようなものなのでしょうか。私は、生まれつき難聴ですので、正直聞こえる世界を知りません。しかし、世の中の事や聞こえる事を考えるとどのようなデメリットがあるのかは、あらかた想像がつきます。

聞こえるようになれば、細かい音が聞こえる事で、イライラする事も考えられますし、家の中にいても何かしらの音が常にしている状態になります。夜に関しては、細かな音が聞こえる事で、案外寝にくくなるかもしれません。今までは、気にならなかった音でも聞こえてくる事により、音に気を取られる可能性があります。

このように音が聞こえる世界は、良い事もあれば、悪い事もあります。

別例から学ぶ事

匂いを感じない方がいきなり匂いを感じるようになったら、どのように感じるのか。これは、難聴の方が、いきなり音が聞こえるようになったら、どのように感じるのかと似ているように思います。

匂いは、感じる事がなければ、そこに匂いがあるとは思いません。これは、音も同様です。さらに、匂いには、いい匂いもあれば、嗅ぎたくない匂いもあります。全ての匂いがいい匂いであれば、匂いを感じる方が良いですが、日常生活には、嗅ぎたくない悪臭があるのも事実です。音もこれと同じです。日常生活をするうえで、聞こえていた方が良いのは確かですが、中には大きい音、聞きたくない音もあります。

別の例で考えてみると聞こえる世界に入ると言う意味がわかりやすくなるのではないでしょうか。聞こえる世界に入るというのは、このような意味を持ちます。聞こえる方が良いに越した事はありませんが、全てが全て良い事だらけではありません。ここには、注意する必要があります。

治すリスクのまとめ

難聴を治すリスクには、これらの事が考えられます。そして、難聴の程度が重いと重いほど、そのリスクは高まります。逆にいうと軽度であれば、あるほどリスクは、少なくなります。音の感覚、言葉を理解する仕組み、音の世界、いずれも考えられる内容です。

また、この他には、聞こえる感覚が変わりすぎてしまい、苦痛に感じるケースも考えられます。難聴になると聞こえてくる音の感覚が一般の人と異なります。オージオグラムが水平型であれば、違和感を感じる事はないと思いますが、高い音が聞きにくい耳であれば、治療後、聞こえてくる音のバランスは、確実に以前と異なるようになります。そうなれば、聞こえてくる音の感覚も以前と変わってしまい、違和感を覚える事も考えられます。

感覚器官を治すというのは、このようなリスクがある事がわかります。

あとがき

耳の聞こえを治すリスクについて考えてみました。耳は、感覚器官だからこそ、色々な事が考えられます。今まで対応してきた事、学んできた事を振り返って考えてみました。

難聴の理解、耳の理解、iPS細胞の理解に繋がれば幸いです。

 

iPS細胞に関しては、こちらにもあります。

リンク:iPS細胞による難聴の治療、一歩踏み出したiPS細胞の現状

リンク:iPS細胞で難聴は治せるか、難聴原因から考える治療の問題

リンク:びっくりするほどiPS細胞がわかる本から学ぶiPS細胞

リンク:iPS細胞は、本当に難聴者を幸せにしてくれるのか

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深井 順一|パートナーズ補聴器
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補聴器を使っている人が対応している補聴器専門店・代表
補聴器のお店には珍しい難聴の補聴器販売員です。生まれつきの難聴者で7歳の頃から補聴器を使っています。補聴器を使っている当事者だからわかること、できることを活かして、難聴の方がスムーズに日常生活を送れるよう聞こえの改善、補聴器のご相談をしています。
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